理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『シンギュラリティは近い[エッセンス版] 人類が生命を超越するとき』

『シンギュラリティは近い[エッセンス版] 人類が生命を超越するとき』を紹介、要約します。 

「シンギュラリティ」という言葉、耳にする機会が増えています。
そのきっかけとなったのが、著者レイ・カーツワイルが本書で提言したことです。
元々、「シンギュラリティ」には「特異点」、という意味があり、数学で使われる用語でした。次にこの用語を用いたのは天文物理学の分野で、ブラックホールの説明のために用いられました。

人類の歴史における知能の爆発、という意味で初めて「シンギュラリティ」を使ったのはジョン・フォン・ノイマンです。ノイマンはコンピュータの発明者として、広く知られています。

 

本書で終始強調されていることは、「収穫加速の法則」です。
これは著者カーツワイル自身が命名したものです。
テクノロジーは線形的に発展するのではなく、指数関数的な速度で拡大する、ということです。
しばしば未来予測が外れるのは、線形的な予測をしているためである、と述べられています。
未来を予測するためには、指数関数的な成長を考えていかなければならないのです。

 

シンギュラリティは機械が人間の仕事を奪う、とか、機械が人間を滅ぼす、といった次元の話ではありません。

「人間と機械の融合」こそシンギュラリティなのです。
すでに脳とコンピュータを直接連結する研究は行われています。

人間の知能の長所は以下のようなものが挙げられます。

  • 捉え難いが一定した特性を持つパターンを認識する能力
  • 経験をもとに洞察を働かせ、原理を理解することで新しい知識を学習する能力
  • 頭の中で現実をモデル化して、そのモデルの様々な側面を変化させることで頭の中で実験を行う能力

欠点は非常に遅いということ、容量が限られていることなどが挙げられています。

一方で、非生物学的な知能は

  • 正確に何度も繰り返し実行する能力
  • 容量
  • 速さ
  • 共有する力

が長所となります。

人間の長所と機械の長所を合体させて脳の機能を高めることで、パラダイムシフトが起こる率が急速に高まります。

まずは、脳の中にナノサイズのロボット(ナノボット)を組み込むことから始まります。ナノボットを用いて、脳の機能解析を進めます。
さらには、生体のニューロンと相互作用して、神経系の内部からVRを作り出し、人間の体験を大幅に広げます。
ナノボットは脳と直接やり取りすることで、非生物学的知能と脳を接続、人間の知能を大幅に向上させます。

ナノボットで解析した人間の脳をリバースエンジニアリングすることによって、人間の知能の並列的で自己組織的なカオス的アルゴリズムを、莫大な能力をもつコンピューティング基板に適用できるようになるでしょう。
こうなると意識を「コピー」してバックアップをとることも可能になります。

この知能は自分自身の設計をハードウェアもソフトウェアも含めて改良する立場になり、それが急速に加速しながら繰り返されるでしょう。

細かい議論は飛ばしますが、2040年代の中盤には、1000ドルで買えるコンピューティングは10の26乗cpsに到達し、約10の12乗ドルのコストで一年間に創出される知能は、今日の人間のすべての知能よりも約一〇億倍も強力になると予測しています。こうした点から、カーツワイルは人間の能力が根底から覆り変容するシンギュラリティは、2045年に到来する、と考えているのです。

 

知能の強化に伴って、人体の強化も起きます。すなわち、人体を機械に置き換えるサイボーグ化です。
そうなったとき、人間とは、自分とは何なのでしょうか?
本書の終盤では哲学的な議論もなされています。

 

2045年にはどんな未来が来るのか。
本書の予測が当たるのか、外れるのか。
本書とともに2045年まで過ごすと非常に面白そうです。

【書評・要約】『エクサスケールの衝撃』〜衣食住がフリーになる社会は目の前?〜

「超知的マシン」が自身を超える「超知的マシン」を開発し、それが繰り返される…
この時が「シンギュラリティ(技術的特異点)」であると言われます。レイ・カーツワイル氏は2045年に到来すると予言しました。

その前段階として、「プレ・シンギュラリティ」が2020〜2030年に訪れる、と予言したのが本書、『エクサスケールの衝撃』です。本書が上梓されたのは2014年です。著者の斎藤元章氏は2030年頃の間に「プレ・シンギュラリティ」が来ると予言しました。 

エクサスケールの衝撃

エクサスケールの衝撃

  • 作者:齊藤 元章
  • 発売日: 2014/12/18
  • メディア: 単行本
 

 本書で頻繁に登場する「プレ・シンギュラリティ」という言葉ですが、これまでの変化とは比にならないほどの社会的変革、として語られています。

プレ・シンギュラリティで起こることは

  • まず電力がフリーになる
  • 衣食住がフリーになる
  • 労働から解放される

といったことが挙げられています。

このような大きな変革をもたらすのが「エクサスケール・コンピューティング」であると筆者は主張しています。ここからは、その具体的な流れについて説明します

 

「エクサスケール・コンピューティング」とは?

2011年6月にスパコン「京」が完成し世界一の演算性能を叩き出しました。この時の京の演算性能は8.16ペタフロップス(その後性能を向上させて10ペタ以上に到達)でした。

(フロップスは一秒間に倍精度の浮動小数点演算を何回行えるかを表すコンピュータの演算性能単位です)

2014年の本書執筆時、著者はポスト「京」の開発に携わっており、2020年完成予定とされていました。もうお気づきの方もいるかもしれませんが、「富岳」がポスト「京」にあたります。「富岳」の性能はトップパフォーマンスで1エクサフロップス(京の10ペタフロップスの100倍)を記録しました。

富岳で取り組む課題と実施期間は以下にまとめられています。
https://www.r-ccs.riken.jp/jp/fugaku/pi/organizations

どの課題であっても、実現された場合のインパクトは計り知れないものだ、と斎藤氏は述べています。

京ではできなかった演算処理や、数十年かかるような計算を現実的な期間で可能になります。

富岳が稼働する2020年頃から2030年頃を「エクサスケール・コンピューティング」と定義しています。

 

まず電力がフリーになる

このエクサスケールコンピューティングによって、太陽光発電や蓄電池などの新材料の探索、人工光合成の実用化、熱核融合発電の研究開発などの進展が進むと述べられています。

一例を挙げると、今後の太陽光発電において期待されている量子ドット方式太陽光パネルですが、新しい材料を用いたナノ量子構造デバイスに関する基礎物性の確立が求められています。
このような新材料の探索と新原理の実証はエクサスケール・コンピューティングが最も得意とするところだそうです。筆者は2030年までには量子ドット方式太陽光パネルの実用化と量産化が可能になると見込んでいます。

このような技術発展により、エネルギー価格が大幅に低下、最終的にはフリーになると筆者は予測しています。

 

続いて衣食住がフリーになる

電力がフリーになると何が可能になるでしょうか。筆者は衣食住へと考えを進めます。

まず「食」です。
現在でも植物工場で、屋内での野菜の栽培が行われていますが、人工光に頼るため光源に要する莫大な電気代がかかるのが現状です。
ですが、電力がフリーになるとどうでしょう。そのコストは大幅に減少します。自然環境に左右されないため安定した収穫も可能になります。
しかも複数回建てにすることも可能なため、栽培にかかる面積は現在よりも格段に減ります。
野菜を餌にし、フリーの電力を使えば、魚介類の養殖や畜産についてもコストが大幅に低下、フリーになる日は近いと考えられます。

野菜、すなわち植物、加えて畜産もフリーで行われれば、植物繊維も動物繊維もフリーに、つまり服もフリーになります。これで「衣」もふりーになりました。

残るは「住」です。筆者は2014年の時点で、在宅勤務が一般化すると喝破しています。そうなれば都市に住む必要がなくなります。植物工場が普及し農耕地が減少することで、土地の価格が減少、居住するのに十分な土地は無償化それに近い形で得ることができるようになるだろうと考えられます。

 

そして、労働がなくなる

衣食住がフリーになると、労働時間を減らすことができます。むしろ働くことが娯楽になる世界が待っているかもしれないのです。

AIが仕事を奪う、と叫ばれていますが、筆者はその逆を考えており、自動化とロボット化が進むことで生産効率が高まり、衣食住の質はますます改善すると考えています。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?こんな未来は来ると思いますか?
私は本書を読んでいて、「エクサスケール・コンピューティング」を万能視しすぎている点、フリーになるまでは国が支援すればいいと筆者が考えている点が気になりました。
ですが、「未来では〇〇は当たり前になっている」という観点で現在の行動をデザインして実現に向かう、ということは非常に大切な思考法だと思います。
そして、こんな素晴らしい未来を作るために日々努力している人がいれば、応援したくなりませんか?

この予言書が描いた未来が訪れるのか否か、「富岳」の活躍に期待しながら、楽しみに待ちましょう。

【書評・要約】『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』

今回は『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』の要約をします。本書では、腸に関する科学的知見をまとめた本です。 

最新の知見が多いですが、人での研究は個人差などの観点で難しいことが多く、腸科学は発展途上、といった印象を受けました。

腸内環境が及ぼす影響

近年の研究で人体の内側や外側にいるあらゆる微生物の集合体を指すヒト・マイクロバイオームが肥満、糖尿病、アレルギー、自己免疫疾患、ひいては性格にまで影響を及ぼすことが明らかになってきました。

たとえば、内向的なマウスに外交的なマウスの腸内細菌を移植すると、内向的なマウスの外向性が向上する(その逆も然り)ということが報告されています。

また、アレルギーに代表される免疫系に関わる病気が近年増加しています。腸内細菌は免疫系と密接に関わっており、腸内環境の悪化が免疫系に悪影響を及ぼしていると考えられています。

 

腸内環境を整えるために

このように、腸内環境は病気や性格など多くのところに影響を及ぼすのです。
健康な腸内環境とは、腸内細菌の多様性がある状態です。
腸内環境を整えるために、具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。
本書では、以下のような対策が提案されています。

  • MACの多いものを食べる

マクドナルドではありません。
Microbiota accessible carbohydrates、略してMACです。
腸内細菌の餌になるMACを多く含む食品は玄米や全粒大麦、豆類、野菜、果物に多く含まれています。

  • 発酵食品を食べる

発酵食品は有用菌のカクテルです。
ヨーグルトや発酵サワークリームケフィア、ピクルス、コンブチャ、納豆、キムチなどが挙げられます。
これらは、腸内細菌の多様性を維持するのに重要な役割を果たします。

  • 土やペットと触れ合う

土壌には多様な細菌がいます。こうした細菌との触れ合いもマイクロバイオータ の多様性維持には重要です。筆者の家では、子供が庭で遊んでいたり、犬と戯れていたり、庭仕事をしたりしていた時には、食事の前に子供たちの手を表せないことも多いそうです。しかし、ショッピングセンターや病院、動物と触れられる動物園、他の人や家畜が病原菌を持っているかもしれない場所から家に帰ってきたときは、手を洗わせるそうです。

抗生物質は悪玉菌だけでなく、善玉菌まで見境なく殺してしまいます。そのため、飲まないに越したことはありません。もしも飲む場合はヨーグルトや発酵食品、有用菌のサプリメントを飲むことが推奨されています。

 

まとめ

本書は腸に関する最新の知見をまとめた一冊になります。
研究が発展途上で、かつ、腸内環境は人によって大きく異なるため、万人に必ず有効な健康法といった類のものは出てきません。
自分自身の腸内環境を知ることもなかなか難しいですしね。
今後の研究の発展が楽しみな分野です!

マコなり社長「Makonari Inside Stories」の感想〜3000円の価値はあるか?〜

IT企業社長兼YouTuberのマコなり社長が月額課金サービス「Makonari Inside Stories」を開始しました。

Makonari Inside Stories

私は開始当初から会員登録をしています。
そこで今回はMakonari Inside Storiesの感想を書いてみようと思います。

なお、情報を外部に漏らさないことが会員の条件となっているので、記事から得た情報については書きません。

Makonari Inside Storiesの内容

Inside Storiesのトップに書かれていますが、内容は以下の通りとなっています。

  • ニッチで濃いビジネス話
  • 未確定情報への推測話
  • 時事ネタへのコメント
  • 個人的な興味関心
  • ジャストアイデア

他には書評、マインドセット、組織論などがあります。

鮮度の高いネタが多めです。

内容はどの回も非常にわかりやすいです。
マコなり社長が自身で調査した上で、噛み砕いて話をしてくれています。

IT業界の話もありますが、頻繁ではないです。
私は化学系のためIT業界に疎いのですが、そんな私でも理解しやすく解説してくれています。
IT業界外の人がIT業界に関して学べることも多少はあると感じています。
(IT業界の方々から見ると常識的な内容が多いのでしょうか…?その辺りはわかりません)


どんな人におすすめか?

  • 自己啓発に取り組みたいビジネスマン
  • マコなり社長が好きで、内幕を知りたい人
  • 最新のビジネスの話を知りたい人
  • 生産性をあげたい人
  • IT企業社長の考え方、行動力を知りたい人
  • 朝の自己啓発・勉強の習慣を身につけたい人

になると思います。

 

YouTubeでは話せない価値ある話」は本当??

私個人の印象では8〜9割が「Youtubeでは話せない価値ある話」である感じています。
(残りの1〜2割のクオリティが低い、という意味ではないです)

記事の中でも、特にYoutubeでは聞けない内容となっているのが、時事ネタ、書評
どちらもYoutubeではほぼ話しませんが、Inside  Storiesでは沢山あります。
経験談を交えた話は非常に面白いです。

また、マインドセットや組織に関する内容もYoutubeとは一味違います。
Youtubeでは一般ウケを狙っている部分が多いです。
しかし、Inside Storiesの思考法や組織論はビジネスマン向けの濃い内容となっています。

 

私がどんな読み方をしているか

情報収集はもちろんですが、私はクリティカル・シンキングの練習に使っています。

生産性の権化とも言えるマコなり社長ですが、
「生産性を上げる=日常に疑問を持つ」ということです。
これは批判的に物事を見るクリティカル・シンキングです。
マコなり社長はクリティカル・シンキングに長けた方だと感じています。


マコなり社長はタイトルの付け方が上手いんです。
「えっ!?」と思う様なタイトルの記事が多いです。

私の場合、記事が投稿されると、
タイトルを見てどんな内容かを考えてから記事を開くようにしています。

例えば、ある日「〇〇さんとのコラボは失敗でした」というタイトルの記事が投稿されました。
(マコなり社長のツイッターでも発表されている人気だった記事の一つです)

私はそのコラボを面白いと感じていたので、タイトルを見て面を喰らいました。
記事を早く読みたい衝動を一旦抑えて、内容を考えます

「なんで社長は失敗って思ったんだろう?」「どんなところに不満があったんだろう?」「そもそも失敗の定義ってなんだろう?」……

色々考えてから記事を開きます。答え合わせです。

「なるほど、そういうことだったのか!」「そういう考え方もあるのか!」「でもそれ違うんじゃない?」……

こんな感じで記事を読んでいます。

 

で、結局3000円の価値はあるの?

情報を受け取るだけの受け身の姿勢の人では、それほどの価値は見出せないでしょう。
マコなり社長の話を吸収して、自分の行動や思考に落とし込もうという姿勢が必要です。
自分のアクションに繋げられる人にとっては3000円の価値はあると考えています。
私にとっては、朝の勉強の習慣化にも一役買っているので、3000円の価値があると感じています。

Makonari Inside Storiesの購読を迷っている人の参考になったら幸いです。

【書評・要約】 LIFE SPAN② 〜老化対策まとめ編〜

『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』(デビッド・A・シンクレア、 マシュー・D・ラプラント著)を紹介します。 

老化の原因については前の記事でまとめました。

dadada-business.hatenablog.com

 

本書は以下の三部で構成されています。

・過去(第一部):老化について、これまでに判明したこと
・現在(第二部):老化を克服するために現在進行形で行われている研究
・未来(第三部):老化が克服できた時に訪れる未来像

 

今回は、現在(第二部)について紹介します。

第一部の結論を一言で言えば、
「長寿遺伝子を働かせるにはカロリー制限、間欠的断食、運動(HIIT)、寒さが有効。ただし、老化の研究は始まったばかりで、まだ人間で確実な効果があるとは言い切れないので注意。」
ということです。

 

それでは、より具体的に内容を紹介していきます。

老化対策=適度なストレス

適度な刺激はホルミシスと呼ばれています。
毒が毒にならない程度の量で刺激効果を表すことを指します。

適度な刺激であれば、細胞のアイデンティティが喪失することなく、細胞分裂を抑えることができるのです。

そのようなホルミシスの例として、ある種の運動、断食、低タンパク質の食事、低温に体を晒す、などが挙げられます。

 

それぞれについて、どのような効果がありそうかをみていきます。

 

食事の量や回数を減らす

筆者が老化に関してアドバイスを一つするなら、

「食事の量や回数を減らせ」

だそうです。何千本も化学論文を読んできた著者に言わせれば、現在間違いなく確実な方法だそうです。

例えば、沖縄県民が長寿であることが知られています。
1978年当時の沖縄県民が摂取する総カロリー量は、
児童は本土の3分の2以下、成人は本土の約80%だったそうです。
しかし、沖縄の方々は長寿で健康寿命が長く、脳血管系疾患、悪性腫瘍、心臓病が非常に少ないことが報告されています。

また、デューク大学の研究チームは145人に対して、平均12%のカロリー制限を実施したところ健康状態が著しく改善、生物学的な老化のペースが落ちたことを報告しました。

 

また、アカゲザルの実験では、30%のカロリー制限をすることで長寿化するという研究成果もあります。
この報告で驚くべき点は、中年からカロリー制限をしても、効果が見られた、という点です。

もちろん、この方法は万人向けではありません。現代社会において30%のカロリーカットは精神的にも負担があります。

 

ですが、カロリー制限をしなくても、カロリー制限をしたのと同じメリットを別の方法でも手に入れることができます。
その方法は間欠的断食です

 

間欠的断食

1946年、ラットを使った実験で、ラットを2日おきに空腹な状態にすると普通に餌を食べた仲間より15〜20%長く生きたことに端を発します。

 

やり方は様々で、

  • 朝食を抜いて遅い昼食を取るもの(16時間食事をせず8時間の間に食べる)
  • 週に2日はカロリーを75%に減らす
  • 2〜3日は食物を一切摂らない
  • 毎月のうち1週間は何も食べない


などが挙げられます。食事の量は変えなくてもOKです。

何を食べるかだけでなく、どう食べるか、が大切です。
宗教的慣習で定期的に断食の習慣がある人々は長寿の傾向があり、断食の習慣と長寿の間に強い相関関係が確認されています。

 

間欠的断食によって得られる効果はカロリー制限をするのと同等だと言われています。
現在のところ、これがベスト、という断食法は無い様です。
いずれは特に効果の高いものが突き止められるでしょう。

(ちなみに、私は朝食を抜いています)

 

運動

運動は体にストレスを与えることに他なりません。
運動をすると長寿遺伝子が活性化し、新しい血管を作らせ、心臓や肺を健康にし、体を丈夫にし、テロメアを長くします。

テロメアは染色体の末端を保護するもので、特徴的な反復配列を持つDNAとタンパク質からなる複合体です。短くなるとエピゲノムに支障をきたします)

 

ジョギングの習慣のあった人は心臓病で死亡する割合が格段にに低い

健康を増進する遺伝子をもとも活性化したのは

「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」

だったそうです。

(20秒激しい運動、10秒休憩を8セット(合計4分)行う運動です。ここではHIITに関する詳しい解説はしません。)

運動がなぜ体にいいかと言えば、運動によって数々の長寿遺伝子がプラスの方向に調整されるためです。そのおかげで、テロメアが伸びたり、細胞に酸素を運ぶ新しい微細血管ができたり、ミトコンドリアの活動が高まって化学エネルギーが増えたりといった効果が現れます。

簡単に言ってしまえば、運動が遺伝子のスイッチを入れ、私たちを細胞レベルで若返られてくれるのです。

 

寒さ

褐色脂肪細胞はミトコンドリアが豊富に含まれる細胞です。これが活性化すると長寿遺伝子から産生される酵素の量が増えます。

(残念ながら本書には具体的にどれくらいの寒さが有効なのかは記述されていませんでした)

 

まとめ

長寿遺伝子を活性化する方法として、日常に簡単に取り入れられる4つの方法を紹介しました。詳しいエビデンスなどは本書を読んでみてください。

老化を治療する薬(現在研究が進行中)についての話も非常に興味深いです。

長寿かがもたらす未来に関する考察についてはこちらでまとめました。 

dadada-business.hatenablog.com

 

それでは!

【書評・要約】 LIFE SPAN① 〜老化の原因は老化の原因はたった一つ〜

『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』(デビッド・A・シンクレア、 マシュー・D・ラプラント著)を紹介します。

本書のメッセージは強烈です。

「老化は『病気』であり、治療できる」

 

歳を取るということに対する考え方を根本からひっくり返される一冊です。間違いなく、読んで損はありません。ただし、理系以外の人には少し難しい内容が多いかもしれません(筆者はかなりわかりやすく説明されていますが…)。

 

本書は以下の三部で構成されています。

・過去(第一部):老化について、これまでに判明したこと
・現在(第二部):老化を克服するために現在進行形で行われている研究
・未来(第三部):老化が克服できた時に訪れる未来像

 

今回は、過去(第一部)について要約します。

第一部の結論を一言で言えば、
「老化の原因は一つであり、老化はエピゲノムと呼ばれる遺伝子のアナログ情報が喪失することによって起こる。」
ということです。

 

それでは、より具体的に内容を紹介していきます。
(要約と言いつつ長くなってしまい、だいたい3000字あります)

 

エピゲノムとは?

老化の原因は情報の喪失である、というのが筆者の主張です。

生体内の情報と言えば、アデニン、グアニン、シトシン、チミン(A、G、C、T)で表されるDNAの塩基配列が挙げられます。

言い換えれば、AGCTの塩基配列はデジタルな情報と言えます。

 

実は、体内にはもう一つの情報、アナログ情報が存在するのです。

アナログ情報は「エピゲノム」と総称されます。

エピゲノムとは、親から子へ受け継がれる特徴のうち、DNAの塩基配列そのものが関わっていないものがエピゲノムです。

エピゲノムは本書の超重要キーワードです。

 

それでは、エピゲノムとはどのようなものか解説しましょう。

人のDNAの長さは2mもあります。
これを細胞(数〜数十μm)の中に仕舞い込むために、46本に分割し、「ヒストン」というタンパク質に巻きつけています。
ヒストンに巻きつくDNAは、庭のホースを片付ける時に輪にしてまとめた状態をイメージするとわかりやすいでしょう。ホースの塊が何千個もあるようなイメージです。

このような構造体全体を「クロマチン」と呼びます。クロマチンがさらに折り畳まれたものが染色体です。

DNAのヒストンへの巻きつきを強くしたり弱くしたりすることで、細胞の運命を決めます。

先ほどのホースの例えを使えば、ホースを緩めたり締め付けたりしているイメージです。

DNAの巻きつきが緩むと、DNAの情報を読み取れるようになり、タンパク質が合成されます。
DNAの巻きつきが強くなると、DNAの情報が読み取れなくなり、タンパク質合成の作業が行われません。

全ての細胞には、同一のDNAが収納されています。
ですが、ヒストンへのDNAの巻きつきを、どの部分を強くするか、どの部分を弱くするかによって、作るタンパク質が変わってきます。
これが、我々の体が同一のDNAで多様な細胞を作ることができる理由の一つになっています。

 

ここまでのエピゲノムについてごく簡単にまとめると、

エピゲノムはDNAの収納の仕方による遺伝情報であり、どんな細胞になるか、アイデンティティを決めるもの

である、と言えます。

 

老化の原因はエピゲノムの変化だ!

エピゲノムはアナログ情報なので、変化しやすいという特徴を持っています。
(生物にとり、これは短所であり、環境変化に適応するための長所でもあります)

 

問題は、エピゲノムの変化はDNAをコピーする際にも起こってしまう、ということです。そのため、エピゲノムによって伝えられるアナログ情報は時の流れに弱いのです。
エピゲノムが変化してしまうと、細胞が自分がどんな細胞だったのか、忘れてしまうのです。
混乱した細胞は元の細胞とは違う細胞、例えば癌細胞になったりします。

 

もうお察しの通り、エピゲノムが変化することによって起こる細胞のアイデンティティの喪失が、老化の原因なのです。

 

老化に関わる“サバイバル回路”

なんと、近年の研究で、老化を制御する長寿遺伝子がいくつか発見されました。

 

長寿遺伝子について説明する前に、我々の祖先にあたるであろう太古の生物が身につけたサバイバル回路について説明します。
(サバイバル回路は著者が名付けたものです)

 

サバイバル回路には遺伝子Aと遺伝子Bがあります。それぞれの役割は以下の通りです。

遺伝子A:環境が厳しい時にスイッチが入って細胞分裂を止める
遺伝子B:
①環境が穏やかな時、遺伝子Aの働きを抑制すること(言い換えれば、細胞分裂を促すこと)
②環境が厳しい時、遺伝子を修復すること

少し難しいかもしれませんが、遺伝子AとBの役割を理解することが、本書を読み進め、老化を理解する上で重要です。

 

環境が穏やかな時は遺伝子Aは遺伝子Bがつくるタンパク質Bによって、働きが抑えられ、細胞が増殖できるようになります。

一方で、環境が厳しく、DNAが壊れると、遺伝子Bから作られるタンパク質Bは遺伝子Aから離れてDNAの修復を助けます。遺伝子Aは抑制から解放され、細胞分裂を止めます。

この仕組みが、サバイバル回路です。

 

このサバイバル回路は子孫を残す上で極めて重要です。環境が厳しい時とは、すなわち、DNAが破壊される時です。そのような時に生殖をおこなってしまうと、DNAが正しくコピーされず、子孫を残すことができません。

すなわち、サバイバル回路とは、子孫が生き延びる確率が高い時だけ細胞を複製する仕組みと言えます。

 

過度なストレスが老化につながる

なんと、この太古の生物が作った遺伝子Bの末裔たちが、長寿遺伝子なのです。

 

我々哺乳類の体には遺伝子Bの末裔が複数存在します。

ここからは、本書で最も詳しく説明されている遺伝子Bの末裔、サーチュイン遺伝子について説明します。

 

サーチュイン遺伝子の役割は遺伝子Bと同様です。細胞分裂の制御と遺伝子の修復です。

環境が穏やかな時、サーチュイン遺伝子から作られるタンパク質、サーチュインはエピゲノムの制御を行っています。遺伝子Aを含む、一部のDNAの巻きつきを強くして、DNAの情報を読み取れない状態にしています。
環境が厳しくなった時、DNAの修復を行います。この時、巻きつきを制御する仕事は疎かになります。すると、遺伝子Aが働き始めて細胞分裂がストップします。

 

問題はこの後です。

DNAの修復という仕事を終えたサーチュインはエピゲノムの制御に戻ろうとします。

適度なストレスならば、問題はありません。(むしろ、プラスの効果です。詳細は後述。)

問題となるのはサーチュインが酷使された時です。

DNA修復ばかりを強いられるような激しいストレスに曝されると、エピゲノムを制御するという仕事の方ができなくなります。そして、元の仕事場に戻れなくなったりもします。
こうなってしまうと、本来巻きつけをキツくしておくべきところが緩くなったり、その逆が起こったりします。

そうです。DNAの損傷が激しく、サーチュインがダメージの修復に励みすぎると、エピゲノムの情報が喪失してしまうのです!

エピゲノムが情報を失うとどうなるかは前述した通り、老化に繋がります。

 

この一連の流れを筆者はわかりやすくまとめてくれています。

若さ→DNAの損傷→ゲノムの不安定化→DNAの巻きつきと遺伝子調節(つまりエピゲノム)の混乱→細胞のアイデンティティの喪失→細胞の老化→病気→死

 

裏を返せば、エピゲノムが安定であれば、老化は防げる、ということです。

そのためには、適度なストレスがとても重要です。

 

老化を止めるには、適度なストレスが重要!

適度な刺激はホルミシスと呼ばれています。
毒が毒にならない程度の量で刺激効果を表すことを指します。

適度な刺激であれば、細胞のアイデンティティが喪失することなく、細胞分裂を抑えることができるのです。

そのようなホルミシスの例として、ある種の運動、断食、低タンパク質の食事、低温に体を晒す、などが挙げられます

 逆に、過剰な刺激の例として、タバコ、有害物質、放射線などが挙げられています。

 

まとめ

老化はエピゲノムの情報喪失によって起こり、サバイバル回路を制御する遺伝子B(長寿遺伝子)をホルミシスによって活性化することで、老化を防ぐことができます。

 

ホルミシスとしてどのような刺激が有効なのか、長寿化がもたらす未来に対する考察にについては、こちらでまとめました。 

 それでは!

 

瞑想の方法まとめ〜まだ瞑想をオカルトだと思っているの?〜

瞑想、と聞くと、怪しいもの、オカルト、宗教など、ネガティブな印象を持つ人もいるのではないでしょうか。

実は、瞑想はグーグルなどの世界的企業で取り入れられている、脳を鍛える効果的なメソッドなのです。

ここでは瞑想の効果とその方法について紹介します。

瞑想の効果

注意力、集中力、ストレス管理、衝動の抑制、自己認識といった自己コントロールの様々なスキルが向上します。
幾つか例をあげます。

  • 瞑想の練習をたった3時間行っただけで注意力と自制心が向上
  • 脳に物理的な変化も現れ、自己認識を司る部分の灰白質の量が増加
  • 定期的な瞑想は禁煙や減量に効果があり、依存症への対策としても有効
  • 脳が反芻思考を止めることによるストレスの低減

 

瞑想のやり方

一般的な瞑想は、呼吸に意識を集中するものです。

意識するべき点は「姿勢」「呼吸」「注意のコントロールの3つです。

 

動かずにじっと座る

伝統的な座った姿勢は「思慮七支坐法」と呼ばれています。

  1. 背筋をまっすぐ伸ばす
  2. 脚を組む
  3. 肩の力を抜き、高く、引きぎみにする
  4. あごは少し引く
  5. 目は閉じるか虚空を見つめる
  6. 舌は口蓋につける
  7. 口を僅かに開き、歯は噛みしめない

 

実は、瞑想は好きな姿勢でして構わないのです。
伝統的な仏教では、座る、立つ、歩く、横たわるの4つが基本とされています。
姿勢を決めるときに注意すべき点は、隙がなく、リラックスした状態を長時間保てる姿勢であることです。

 

そのため、椅子に座っても構いません。
その際は、足の裏をぴったりつけましょう。
クッションにあぐらを描いて座るのも良いです。

両手は膝の上か太ももの上に置きます。

 

特に注意すべき点は背筋を伸ばすことです。
背筋を伸ばす際は、お腹をちょっと突き出すくらいをイメージします。
姿勢を良くすることで横隔膜が大きく動くようになり、脳に酸素が回って瞑想の効果が高まると言われています。

目は閉じていても開けていてもいいです。
目を閉じて眠ってしまいそうなら、一点を見つめているといいでしょう。

 

ゆっくりと呼吸する

吐く時間の方を長くすることを意識しましょう。
人間は吐く時間が長い方がリラックスできます。
具体的には、4秒吸って6秒吐くを繰り返します。
はじめのうちはと心の中で言うのもいいでしょう。
1、2、3、4と呼吸をカウントするのもありです。

 

呼吸に意識を集中する気が散ったら、元に戻す

数分経ったら、心の中で「吸って」「吐いて」というのをやめます。呼吸をしている、という感覚に集中するのです。

続けていると、注意が呼吸から逸れて余計なことを考えていることに気がつくでしょう

 

気が散った時は次のステップで対処します。

  1. 認める。ただ何が起こっているかを認める。
  2. 反応せず経験する。いい、悪いといった判断はしない。
  3. 反応する必要があっても、マインドフルネスは保ち続ける。顔をかきたかったら、痒い感覚に注意を向け、かこうという意図に注意を向け、腕と指のの動きと顔を描いている感覚に注意を向ける。
  4. 再び呼吸に意識を戻す。「吸って」「吐いて」や1、2、3、4と呼吸をカウントするところに戻ってもいい。

 

瞑想の目的は「意識をそらさないこと」「頭を空っぽにすること」ではありません。

「意識が逸れたことに気づくこと」、そして「呼吸に意識を戻すこと」が重要なのです。

注意を戻すときに脳が鍛えられるのです。

 

瞑想の時間

頭をスッキリさせるリラクゼーションが目的なら、5分がいいです。

1日27分(分割してもOK、できれば一回で)くらいやると効果が大きくなるそうです。

複数の本を読んでみましたが、10〜20分で十分な効果が得られると書かれているものが多いです。

慣れていない始めのうちは5分、いや、1分でもいいです。

瞑想は継続して行うことが大事です。

短時間であっても毎日行うことが推奨されています。

徐々に時間伸ばしていきましょう。

 

習慣の身につけ方については下記の記事を参考にしてください。 

dadada-business.hatenablog.com

 

歩行瞑想

前の項でもかきましたが、瞑想する時の姿勢は本来自由です。歩きながら行う歩行瞑想というものもあります。座って行う瞑想と効果を比較しも、遜色ないそうです。

座っている時間が長くなるとメンタルに良くない、ということが研究によってわかっています。

歩行瞑想のやり方は、両足とも「地面から離れる・前に出る・下がる・地面につく」という感覚に集中します。

歩行瞑想を普段の歩行のペースで行うのは困難です。はじめは足の足の裏の感覚に集中しながらスローモーションで行いましょう。

場所は外でも室内でも大丈夫です。

 

まとめ

瞑想のやり方と効果をまとめました。

もうやらない理由が見当たりません。

私も実践していて、余計なことをしているときにすぐに気がつくようになりました

集中力が上がったような気がしています。

皆さんもお試しあれ。

 

参考文献