【書評・要約】『Anthro Vision(アンソロ・ビジョン)』~ビジネスに人類学視点を活かす~
同じ商品でも、地域によって捉え方が違う。ある地域で成功した売り方が、別の地域では全然売れない。
経済学やビッグデータ分析が問題解決に失敗することが多々あります。その原因を人類学の視点で考察したのが本書、『Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界 (日本経済新聞出版)』です。
【目次】
著者について
著者はジリアン・テット。ケンブリッジ大学で社会人類学の博士号を取得、さまざまな地域の現地調査も経験しています。また、ファイナンシャル・タイムズ紙で編集長などを担当しました。本書以外にも『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』や『愚者の黄金: 大暴走を生んだ金融技術』などがあります。
本書の概要
経済予測や金融モデル、選挙の予想が上手くいかない。こうしたモデルやツールに問題が生じる理由は、文化や背景を配慮せずに使用しているからだ、というのが本書の主張です。著者が実際に体験したエピソードをもとに、人類学的視点が実際のビジネスや政治、経済に役に立つかが語られています。
オススメしたい人
・ビジネスの現場で人間や文化を理解することで、課題解決やイノベーションの可能性を探りたい人
・グローバルな視野を持ち、異文化コミュニケーションや多様性などについて学びたい人
・人類学に興味があり、どのように活用できるかを学びたい人
要点まとめ
ここからは、私が印象に残った点をまとめます。
人類学的視点の3つの基本思想
・見知らぬ人への共感を大切に
・他者の考えに耳を傾ける
・「未知なるもの」と「身近なもの」という概念を理解する。未知なるものに入り込み身近なものにする、身近なものを完全な部外者になった気持ちで未知なるものとして捉える
日本のキットカットの売り方は特殊
日本でキットカットは「きっと勝つ」ということでお守りがわりに使われています。そんな売り方をしているのは日本だけです。
受験シーズンにキットカットの売り上げが伸びている現象を不思議に思った担当者が調べた結果、縁起物として使われていることが判明したそうです。そこからマーケティング戦略が変わりました。「きっとサクラサクよ。」といったキャッチコピーを使ったり、メッセージを書く欄を袋に設けたりした結果、売り上げが大きく伸びたそうです。
欧米の先入観にとらわれず、日本の文化や言葉に着目したことで、ビジネスの成功につながりました。本書にはこのような事例が多く掲載されており、非常に面白く読むことができました。
人類学的視点を身につけるには
①誰もが自らの環境によって形作られていることを理解する。
②人間のあり方は多様性に満ちていることを知る。
③短時間でも他の人々の考え方、生き方に入り込む方法を探す。
④部外者の視点で自分や自分の周辺環境を見直す。
⑤社会的沈黙に耳を澄ませ、ルーティーンとなっている儀礼や象徴について考える。
まとめ
本書は人類学的視点で社会を見ることの重要性を説いた一冊です。著者の経験談をもとに語られており、専門的な話は少なめなのでとても読みやすかったです。今までとは少し違った視点で世界を見ることができるようになると思います。
ぜひご一読あれ。