理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】 LIFE SPAN② 〜老化対策まとめ編〜

『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』(デビッド・A・シンクレア、 マシュー・D・ラプラント著)を紹介します。 

老化の原因については前の記事でまとめました。

dadada-business.hatenablog.com

 

本書は以下の三部で構成されています。

・過去(第一部):老化について、これまでに判明したこと
・現在(第二部):老化を克服するために現在進行形で行われている研究
・未来(第三部):老化が克服できた時に訪れる未来像

 

今回は、現在(第二部)について紹介します。

第一部の結論を一言で言えば、
「長寿遺伝子を働かせるにはカロリー制限、間欠的断食、運動(HIIT)、寒さが有効。ただし、老化の研究は始まったばかりで、まだ人間で確実な効果があるとは言い切れないので注意。」
ということです。

 

それでは、より具体的に内容を紹介していきます。

老化対策=適度なストレス

適度な刺激はホルミシスと呼ばれています。
毒が毒にならない程度の量で刺激効果を表すことを指します。

適度な刺激であれば、細胞のアイデンティティが喪失することなく、細胞分裂を抑えることができるのです。

そのようなホルミシスの例として、ある種の運動、断食、低タンパク質の食事、低温に体を晒す、などが挙げられます。

 

それぞれについて、どのような効果がありそうかをみていきます。

 

食事の量や回数を減らす

筆者が老化に関してアドバイスを一つするなら、

「食事の量や回数を減らせ」

だそうです。何千本も化学論文を読んできた著者に言わせれば、現在間違いなく確実な方法だそうです。

例えば、沖縄県民が長寿であることが知られています。
1978年当時の沖縄県民が摂取する総カロリー量は、
児童は本土の3分の2以下、成人は本土の約80%だったそうです。
しかし、沖縄の方々は長寿で健康寿命が長く、脳血管系疾患、悪性腫瘍、心臓病が非常に少ないことが報告されています。

また、デューク大学の研究チームは145人に対して、平均12%のカロリー制限を実施したところ健康状態が著しく改善、生物学的な老化のペースが落ちたことを報告しました。

 

また、アカゲザルの実験では、30%のカロリー制限をすることで長寿化するという研究成果もあります。
この報告で驚くべき点は、中年からカロリー制限をしても、効果が見られた、という点です。

もちろん、この方法は万人向けではありません。現代社会において30%のカロリーカットは精神的にも負担があります。

 

ですが、カロリー制限をしなくても、カロリー制限をしたのと同じメリットを別の方法でも手に入れることができます。
その方法は間欠的断食です

 

間欠的断食

1946年、ラットを使った実験で、ラットを2日おきに空腹な状態にすると普通に餌を食べた仲間より15〜20%長く生きたことに端を発します。

 

やり方は様々で、

  • 朝食を抜いて遅い昼食を取るもの(16時間食事をせず8時間の間に食べる)
  • 週に2日はカロリーを75%に減らす
  • 2〜3日は食物を一切摂らない
  • 毎月のうち1週間は何も食べない


などが挙げられます。食事の量は変えなくてもOKです。

何を食べるかだけでなく、どう食べるか、が大切です。
宗教的慣習で定期的に断食の習慣がある人々は長寿の傾向があり、断食の習慣と長寿の間に強い相関関係が確認されています。

 

間欠的断食によって得られる効果はカロリー制限をするのと同等だと言われています。
現在のところ、これがベスト、という断食法は無い様です。
いずれは特に効果の高いものが突き止められるでしょう。

(ちなみに、私は朝食を抜いています)

 

運動

運動は体にストレスを与えることに他なりません。
運動をすると長寿遺伝子が活性化し、新しい血管を作らせ、心臓や肺を健康にし、体を丈夫にし、テロメアを長くします。

テロメアは染色体の末端を保護するもので、特徴的な反復配列を持つDNAとタンパク質からなる複合体です。短くなるとエピゲノムに支障をきたします)

 

ジョギングの習慣のあった人は心臓病で死亡する割合が格段にに低い

健康を増進する遺伝子をもとも活性化したのは

「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」

だったそうです。

(20秒激しい運動、10秒休憩を8セット(合計4分)行う運動です。ここではHIITに関する詳しい解説はしません。)

運動がなぜ体にいいかと言えば、運動によって数々の長寿遺伝子がプラスの方向に調整されるためです。そのおかげで、テロメアが伸びたり、細胞に酸素を運ぶ新しい微細血管ができたり、ミトコンドリアの活動が高まって化学エネルギーが増えたりといった効果が現れます。

簡単に言ってしまえば、運動が遺伝子のスイッチを入れ、私たちを細胞レベルで若返られてくれるのです。

 

寒さ

褐色脂肪細胞はミトコンドリアが豊富に含まれる細胞です。これが活性化すると長寿遺伝子から産生される酵素の量が増えます。

(残念ながら本書には具体的にどれくらいの寒さが有効なのかは記述されていませんでした)

 

まとめ

長寿遺伝子を活性化する方法として、日常に簡単に取り入れられる4つの方法を紹介しました。詳しいエビデンスなどは本書を読んでみてください。

老化を治療する薬(現在研究が進行中)についての話も非常に興味深いです。

長寿かがもたらす未来に関する考察についてはこちらでまとめました。 

dadada-business.hatenablog.com

 

それでは!