【書評・要約】『多様性の科学』〜複数の視点を持つ組織〜
本記事は『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』の書評・要点まとめになります。
目次
本書について
著者について
本書の著者はマシュー・サイド氏。
英『タイムズ』紙の第一級コラムニスト、ライターです。
リポーターやコメンテーターとしても活動しています。
組織の失敗に着目した著作『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』も話題になりました。
本書『多様性の科学』はマシュー・サイド氏の新刊になります。
本書の概要
本書はタイトルの通り、多様性に着目しています。
考え方が異なる人々の集団が大きな成功をもたらす事を様々な角度から検討しています。
いわゆる「成功術」について語られる本は、「個人」に焦点が当てられることが多いのが実状です。
それに対して本書は組織の生産性を高める方法を記しています。
凋落する組織と複数の視点で問題を解決する組織、その違いは何か?
そのキーワードが多様性なのです。
本書は多くの実例を挙げながら、
などを説明しています。
著者がコラムニストというだけあり、非常に読みやすく理解もしやすい一冊になっています。
オススメしたい人
仕事でチームを率いる立場にいる方や人事担当の方には強くオススメできます。
組織のデザインや運営方法について、多くの学びがあることでしょう。
学校の先生やスポーツチームのリーダーも、大いに参考になるかと思います。
本書の要点
以下では、私が興味を持った点についてまとめます。
多様性が重要になるのはどういう問題か?
多様性は、全ての問題に対して効果を発揮する訳ではありません。
単純作業を繰り返すタスクの場合、その作業がとにかく早い人を集めることが最もその問題を解決することにつながります。
多様性が重要になってくるのは経済予測のような「複雑な問題」です。
同じ特徴の者ばかりでは、優秀な人が何人集まったところで、盲点は同じです。
みんな揃って同じ間違いを犯すことになります。
さまざまな知識や考え方の枠組みが組み合わさることによって、複雑性の高い問題に対して強い力を発揮することができます。
本書では、例として経済予測の問題が取り上げられています。
デューク大学のソル教授はエコノミストによる経済予測を分析しました。
当然、当たっている人も当たっていない人もいました。
トップの成績を収めたエコノミストの正解率は全エコノミストの平均より約5%以上高かったそうです。
個人で差がつくのは当たり前ですが、実験が興味深いのはここからです。
ソル教授は上位6人のエコノミストの予測の平均も出したのです。
すると、個人トップのエコノミストの予測よりも、6人の平均の方が15%も高かったのです。
エコノミストは経済予測をする際に独自の経済モデルを使用します。
しかし、完璧な経済モデルは存在しません。
いくつかの結果を組み合わせることで、より確かな全体像が見えてきたのです。
この結果は複雑な問題に対しては「集合知」が有効に機能したことを示しています。
「支配型」ヒエラルキーと「尊敬型」ヒエラルキー
どんな集団にもヒエラルキー(階層)が存在します。
通常、集団にはリーダーが必要です。
リーダーが賢明な決断を下すには、その集団内で多様な視点が共有されていることが肝心です。
では、組織は「ヒエラルキーと情報共有」あるいは「決断力と多様性」のバランスをどう取ればいいのでしょうか?
それを理解するために、本書ではヒエラルキーには2つの形があることが紹介されています。
「支配型」ヒエラルキーと「尊敬型」ヒエラルキーです。
支配型ヒエラルキー
支配型ヒエラルキーは、リーダーが威圧的であったり攻撃的で、褒美と罰でメンバーを操作するような状態です。
人類だけでなく、霊長類などにも見られます。
誰かの地位が上がれば他の誰かが蹴落とされます。
裏切りや報復などの行為が横行し、常に周りを警戒し続けなければなりません。
そのため、支配型ヒエラルキーは「ゼロ・サム」環境なのです。
尊敬型ヒエラルキー
一方で尊敬型ヒエラルキーは周りが自由に判断してリーダーを敬い、相手に敬意や好意を表します。
尊敬型ヒエラルキーの場合、リーダーの寛容な態度がフォロワーに影響を与えます。
尊敬型のリーダーが知恵を共有すれば、集団全体に寛容で協力的な態度が浸透します。
人を助けることで、相手ばかりでなく結局自分にもプラスになります。
したがって、尊敬型ヒエラルキーは「ポジティブ・サム」環境が強化されるのです。
尊敬型ヒエラルキーで多様な意見を集める
支配型ヒエラルキーのチームではメンバーは自分の意見を発信しにくい問題があります。
新たなアイデアを出したり、様々な角度から問題を検討する必要がある場合は尊敬型ヒエラルキーが有利なのです。
この考え方は「心理的安全性」の理論にも符合します。
多様性のあるチーム作れば万事解決するわけではありません。
多様性の効果は、その組織の環境にも大きな影響を受けるのです。
多様性が引き起こすイノベーション
イノベーションにも多様性は大きく関係しています。
イノベーションには2種類あります。
一つは段階的にアイデアを深めていく「漸進的イノベーション」。
もう一つは異分野のアイデアを融合する「融合のイノベーション」です。
融合のイノベーションはどんな人が起こすのか
本書で注目しているのは、融合のチャンスを掴む人とその違いは何か、という点です。
なんと、大抵の場合、手に届かないからではなく、その可能性に自分から背を向けてしまうためだそうです。
長いキャリアを持つ人であればあるほど、従来の思考の枠組みにとらわれがちです。
ミシガン州立大学のある研究チームはノーベル賞受賞者とその他の科学者を比較しました。
その結果、ノーベル賞受賞者はその他の科学者に比べて
- 楽器を演奏する者が2倍
- 絵を描くか彫刻をする者は7倍
- 詩か戯曲か一般向けの本を書くものは12倍
- アマチュア演劇かダンスかマジックをするものは22倍
多かったそうです。
様々な分野に触れることで、異なる角度から問題を眺めることができるようになると言えます。
ネットワーク効果
イノベーションを起こす重要な鍵は「アイデアの共有」にあります。
アイデアは物理的な制約がありません。
一旦共有されると、他のたくさんのアイデアと融合される機会も増えます。
すなわち、多様性に富んだネットワークを形成し、アイデアを共有することでアイデアが融合される機会も生まれるのです。
まとめ
本書には、組織における多様性の重要さをまとめられています。
また、標準化することの危険性やエコーチェンバー現象などについても述べられています。
豊富な実例と共に学術的な研究成果も掲載されており、説得力ある一冊となってます。
ぜひご一読あれ。