理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『操られる民主主義』〜民主主義とテクノロジーの未来〜

テクノロジーによって民主主義はどのように変容するのか?
本記事はそんな難題に向き合った一冊『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』の書評・要約になります。

著者について

著者はジェイミー・バートレット氏。政治とテクノロジーに関する英国での研究の第一人者です。
本書以外にも『ラディカルズ 世界を塗り替える<過激な人たち>』『闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏世界の内幕』といった著作があります。どちらもテクノロジーと政治の問題に鋭く切り込んでおり、非常に面白いです。

なお2022年5月現在、『ラディカルズ』はKindle Ulimitedで読むことができます。

本書の概要

本書は、デジタル・テクノロジーの発展により民主主義が根幹から脅かされている、という立場で書かれています。
現在どのような問題が起きているのか、民主主義に迫っている脅威を一つ一つ明らかにしていきます。

具体的にはドナルド・トランプの当選に影響を与えたとされるマイクロ・ターゲッティング、ビットコインに代表される仮想通貨、SNSなどです。

終盤では将来的にデジタル・テクノロジーが民主主義を衰退させるかを予測しています。

それと共に、民主主義を守るための二十の手段も示しています。

オススメしたい人

政治に興味がある人、デジタル・テクノロジーの政治への影響を知りたい人。

政治とデジタル・テクノロジーの両方を扱っていることもあり、少々難しかったため、万人にオススメできるわけではありません。
しかし、政治やテクノロジーの将来を考えるためには、必携の一冊だと思います。

要点まとめ

ここからは、私なりに要点をまとめていきます。

民主主義6本柱とそれらに迫る脅威

著者は以下の民主主義の6本柱に対して、デジタル・テクノロジーの脅威が迫っていると述べています。

  • 行動的な市民←スマホなどのデバイスを通した監視社会
  • 文化の共有←エコーチャンバー、フィルターバブル、フェイクニュースによる「部族化」
  • 自由選挙←ビッグデータを駆使したマイクロ・ターゲッティング
  • 利害関係者の平等性←機械化が推進する単純作業減少に伴う中流階級の消滅(バーベル型経済)
  • 競争経済と市民の自由←ネットワーク効果によるテック企業の独占
  • 政府に対する信頼←暗号化

テクノロジーがもたらす民主主義の未来

デジタル・テクノロジーが社会にとって良い影響だけを及ぼすとすれば、生産性が向上して単純労働からは解放され、ネットワークは拡大、知識は増加し、人類は豊かになるでしょう。これはユートピア版のシナリオです。

一方でディストピア版のシナリオでは、中央政府の能力が劣化し、不平等が高まり、富が局在化して、秩序は失われます。

著者はこれらとは異なる第三の可能性も提示しています。それは民主主義の制度を少数の技術専門集団が動かし、権力と権威が中央集権化する未来です。筆者は国民が支配的な体制の扇動政治に傾いていくことを恐れています。また、その変化は急激ではなく、ゆっくりとしたものになるだろうと述べています。

民主主義を救うためのアイディア

本書の最後に、民主主義を救うための20のアイディアが提示されています。例えば、以下のようなものです。

テクノロジーからどのように政治を守るか、という観点でアイディアが挙げられています。

まとめ

本書はデジタル・テクノロジーが民主主義に与える影響(主に悪影響)を記した一冊になります。
読んでいて空恐ろしい気持ちにさせられました。

しかし、同時に民主主義を救うためのアイディアも提示されています。

今度のテクノロジーとの付き合い方を考えさせられる一冊でした。

ぜひご一読あれ。