理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『恐れのない組織』〜心理的安全性とは何か〜

最近、心理的安全性」という言葉を耳にする機会が増えていませんか?

本記事は心理的安全性に関する研究の第一人者であるエイミー・C・エドモンドソン氏の著書『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』の書評・要約になります。

 

著者について

エドモンドソン氏はハーバード・ビジネススクールで教授を務めています。リーダーシップ、チーム、組織学習の研究と教育に従事しています。

本書の他にも『チームが機能するとはどういうことか──「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』という著作があります。

本書の概要

本書には心理的安全性に関する解説や実践するための方法が記されています。
実際の組織で起こった例を示しながら、心理的安全性が組織に与える影響や、なぜ重要なのか、を描いています。
実際に読者が所属している組織の心理的安全性を向上させる行動についてもまとめられています。

心理的安全性という概念を提唱し、第一線で活躍してきた著者が書いた一冊ということもあり、基礎的なことから実践的なことまで幅広く網羅されています。

オススメしたい人

特に、チームのリーダーを務める人。

心理的安全性を組織にもたらすためにはリーダーの役割がとても大きいです。
ビジネスマンに限りません。病院や学校にお勤めの方も当てはまります。

また、部下の行動も同じく重要です。部下としてどのように振る舞えば良いかを学びたい人にもオススメできます。

要点まとめ

ここからは、私が本書で印象に残った点、特に心理的安全性とは何か、という点について説明します。

心理的安全性とは?

著者は心理的安全性を

みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化

と説明しています。

多くの人は気付かぬうちに職場での自分のイメージをコントロールしてしまっています。
空気を読んで主張することを避ける、角が立たないように反対意見は言わない…
心当たりがある方も多いのではないでしょうか。
誰しも、他人のとの対立は避けたいものです。

しかし、有能なチームには率直に話す風土があることを著者は突き止めました。
対人関係のリスクをとっても安全だと信じることができる、それが心理的安全性です。

特に著者は沈黙の危険性を繰り返し説いています。
沈黙は懸念の表明より同調圧力が大勢を占める文化です。
盲目的服従集団主義、閉鎖性につながります。
率直に話し合う文化を作るために、心理的安全性は重要なのです。

なぜ、今、心理的安全性なのか?

近年、機械的に予測可能な仕事が減っています。
現代の仕事に必要なのは単純作業を淡々と繰り返すことができる能力では、もはやありません。

今求められているのは、クリエイティブな能力です。
他者とのアイディアや知識の共有の重要性が増してます。

意外なことに、学歴、趣味、友人関係、性格といった要素はチームのパフォーマンスとは関係がなかったそうです。
高い成果を出していたのは、心理的安全性の高い組織でした。

チームを成功させる5つの鍵

Google社内のチームを調べた調査結果によると、チームを成功させる鍵は以下の5つだそうです。

  1. 心理的安全性
  2. 信頼性
  3. 構造と明確さ
  4. 仕事の意味
  5. 仕事の影響

詳細は以下の参考文献をご覧ください。
re:Work - The five keys to a successful Google team

心理的安全性があれば全てがうまく行く訳ではありませんが、心理的安全性は残り4つの要素の土台となります。
そのため、心理的安全性は他の4つより群を抜いて重要であるそうです。

心理的安全性に関する勘違い

著者は心理的安全性は以下のようなことではない、と述べています。

× 感じ良く振る舞うこと
× 外向性
× 信頼
× 気楽に過ごすこと

特に、信頼と心理的安全性は混合されがちです。
信頼とは二人、あるいは2つの組織間で醸成されるものです。
一方、心理的安全性はグループレベルです。
会議で率直な意見を言わず、終了後に「実は私はこう思っている」と担当者に告げる、というのは個人間の信頼は高くても心理的安全は低い組織と言えます。

リーダーの役割

心理的安全性を下げる要素の一つはヒエラルキーです。
強固な上下関係はメンバーの萎縮につながります。
そのため、リーダーの立ち振る舞いは非常に重要な役割を果たします。

本書では心理的安全性を確立するためのリーダーのツールキットが紹介されています。
ここでは私が重要だと感じた一つを紹介します。
それは、状況的謙虚さです。
リーダーは完璧である必要はありません。
むしろ、完璧でないことを認めた方がいいです。
自分が全ての答えを持っているわけではなく、未来を見通すことはできないと認めること。
そのような姿勢をリーダーが持つことが心理的安全性を作り出すための一歩だと感じました。

まとめ

本書『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』は心理的安全性についてまとめられた一冊です。
当該分野で活躍する研究者の著作だけあり、非常に充実した内容です。
特に、組織運営に悩まれている方には学びをもたらすでしょう。

ぜひご一読あれ。