理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『働かないアリに意義がある』〜働かないアリが生き延びた理由〜

働きアリの一部は働いていない。そんな話を聞いたことがある方も多いと思います。
それでは、働かないアリは何のために存在しているのでしょうか?

その謎に迫った研究者が記したのが本書、『働かないアリに意義がある』です。

著者について

本書の著者は長谷川英祐氏。進化生物学を専門とする北海道大学大学院の准教授です(2022年5月現在)。

本書の概要

アリの社会には、働き者のアリと働かないアリが存在しています。
普通に考えれば、全員で働いた方がいいはずです。
しかし、そのような性質を持っているのは、進化の過程で生き残るために必要だったからこそです。

そんな不思議なアリの社会を詳細に研究した結果をまとめたのが本書です。

タイトルが非常にユーモラスな一冊ですが、本文もユーモアに溢れており、専門的な部分もわかりやすく説明してくれています。

オススメしたい人

昆虫好き、ビジネスマン。

昆虫に関して記された本ですので、昆虫が好きな人、科学が好きな人にはもちろんオススメです。
また、ビジネスマンにもオススメしたいです。働くことこそが正しい、という思い込んでいるビジネスマンは非常に多いです。本書はそんな方にも柔軟な視点を授けてくれるでしょう。

要点まとめ

ここからは、私が印象に残った要点をまとめます。

働かないアリはどのくらいいるのか?

観察の結果、ある種のアリの働きアリは、ある瞬間7割ほどが「何もしていない」そうです。筆者たちがシワクシケアリというアリで1ヶ月間の観察を続けた結果、だいたい2割くらいは「働いている」とみなせる行動をほとんどしない働きアリであった、という結果が得られています。

全員で働いた方が良い、と直感的には考えてしまいます。しかし、生物の進化の原則は「自然選択」、厳しい競争を生き延びられる性質が将来の世代で広まっていく、というものです。すなわち、タイトルの通り、働かないアリに意義があるのです。

「反応閾値」=「仕事に対する腰の軽さ」の個体差が重要

働かないアリがいる理由を考察する上で、重要なキーワードが「反応閾値です。
反応閾値は仕事に対する腰の軽さ、と言い換えることができます。

人間に例えれば、綺麗好きな人とそうでもない人では、掃除したくなる散らかり具合が異なるために、綺麗好きな人の方が良く掃除をするということです。

アリでも同じように個性があり、働くことに対して反応閾値が異なるのです。
腰の軽いアリと腰の重いアリがいるということです。

腰の軽いアリは一生懸命働きます。頑張って働くとどうなるか?人間と同じです。働き続けると、疲れてしまうのです。

そんなピンチで働き始めるのが、普段働かないアリです。普段働かないアリが働くことで、働きアリが休憩することできます。
休んで復活した働きアリが再び働き始めると、働かないアリは働かない日常に戻ります。

筆者はシミュレーションで全員が働くアリのシステムと、働かないアリもいるシステムを比較しました。その結果、働かないものがいるシステムの方が、コロニーは平均して長い時間存続することがわかったそうです。
全員が頑張って働いて一斉に疲れてしまうことがあり得ます。そうした場合、卵の世話のような短い時間でも中断するとコロニーに大きなダメージを与えてしまいます。中断できない仕事がある場合、働きアリだけのコロニーは長期間は存続できなくなってしまうそうです。

つまり、働かないアリは全く働く気がないのではなく、働く前に働き者に仕事奪われ、ピンチの時にコロニーを救う役割を担っているのです。

まとめ

本書は働かないアリがなぜ存在するのか、研究成果が記された一冊になります。
とても読みやすくて飽きることなく読むことだできました。

ぜひご一読あれ。