【レビュー・要約】『キラーストレス』~ストレスが脳を物理的に蝕む~
今回紹介するのは、『キラーストレス 心と体をどう守るか』です。
ストレスはある条件が重なると、命を奪う病の原因へと形を変えます。
本書の取材班はこのストレスをキラーストレスと名付けました。
(学術的用語ではありません)
ストレスが遺伝子を操り、ガン細胞を増殖させる仕組みが明らかになってきているそうです。また、ごく普通の細菌がストレスに刺激されることで殺人細菌へと姿を変え、突然死を引き起こすことも判明しました。
近年になり、ストレスの正体が科学的にわかってきたのです。
本書の内容は
・ストレスがどのような方法で体と心を蝕んでいくか
・ストレス対策法
となっています。
ここでは、特にストレスが脳に与える影響について要約します。
そもそもストレスって何?
ストレスを改めて定義すると、それは「変化」です。
生きている限り、ストレスがない状態はありえないのです。
「変化」であるため、ストレスは仕事ばかりではありません。結婚、レクリエーションの増加、収入の増加と言ったいいこと、嬉しいことにカウントされるライフイベントもストレスを構成するものとしてあげられます。
本来、ストレスによって引き起こされる反応は、進化の過程で獲得してきた身をも守る仕組みです。
天敵に出会ったとき、命がけで戦うか、もしくは必死で逃げるか、追い詰められた場面で威力を発揮したのがストレス反応です。
人間の体は危険と遭遇したとき、心拍数が増え、血圧が上がります。そして、肝臓から糖が放出されて血糖値が上昇し、エネルギー源が全身に供給されます。
これにより戦う態勢、逃げる態勢の両方が瞬時に準備されます。
現代においては、猛獣のような天敵がいなくなりました。しかし、仕組みは残っているのです。
そして、精神的な重圧を感じた時に働くようになりました。
ストレスを感じた時の脳の反応
ストレス反応を起こす引き金となるのは「扁桃体」です。
超絶大雑把にストレスホルモンが出るまでの流れはこんな感じです。
ストレスホルモンはコルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンといったものです。
ストレスは
「頑張るストレス」(体に影響を与える)と
「我慢するストレス」(心に影響を与える)の
二つに分けられます。
頑張るストレスは仕事でノルマに追われているような時に生じるストレス。
アドレナリンなどが過剰分泌され、血圧の上昇など様々な身体的反応につながります。
我慢するストレスは何かを耐え忍ぶ状態を継続しなければならない状況のストレス。
満員電車、人混み、騒音、複雑な人間関係インターネットや携帯電話による心理的拘束などが要因になります。
脳を蝕み心に影響を与える「コルチゾール」
近年、「我慢するストレス」に注目が集まっています。
この種のストレスが原因で、心の病につながる反応が私たちの体の中で起こることがわかってきたためです。
心の病と関連しているストレスホルモンが「コルチゾール」です。
本来、コルチゾールは副腎から分泌されると、血流に乗って体内を循環しながらエネルギー源の補充などの重要な役割を果たします。
役割を終えると脳にたどり着いて、脳に吸収される。これが正常なストレス反応です。
ですが、ストレスが積み重なると、コルチゾールが止めどなく分泌され続けるようになってしまいます。
脳に溢れたコルチゾールは、脳の一部を蝕んでしまいます。
コルチゾールが海馬に与える影響
まず、海馬が大きな影響を受けます。
海馬が大きな影響を受けるのは記憶や学習を司る部位だからだと考えられています。
環境に適応するため動物の海馬は柔軟性を備えています。
それだけに、ストレスホルモンの影響を受けやすいのです。
慢性的なストレスによって脳内に溢れたコルチゾールは海馬の神経細胞を蝕み、神経細胞の突起の数が減少します。
さらに海馬の異常が進むと、海馬が萎縮して脳の中に隙間ができ、虫食いのように見えます。
海馬の損傷が強くなってくるとうつ病の症状が出てくると指摘されています。
(本書の中に萎縮した海馬の写真があります。ストレスが脳に影響を与える、ということが一眼でわかる衝撃的な写真です。)
このように、ストレスは脳を物理的に蝕むのです。
コルチゾールは全身を巡ってエネルギー源を補充するなどの仕事を終えた後、脳にたどり着き、脳は「ストレス反応はもう十分」と判断し、ストレスホルモンの分泌をストップさせます。
しかし、太古の昔には想定されていなかった絶え間のないストレスがコルチゾールの過剰な分泌を引き起こし、脳を蝕むのです。
過敏になる偏桃体
刺激の多い日常が扁桃体を過敏にしています。
現代の都市生活者が受ける信号やネオン、人混み、騒音などは扁桃体を刺激します。多くの刺激を受けて過敏になっている扁桃体はちょっとしたことにも大きく反応して、ストレス反応を拡大してしまいます。
現代では必須となっているスマホやパソコンも扁桃体に刺激を与えていると考えられています。現代社会は扁桃体を常に刺激し、ストレスに弱い脳を作り出しているといえます。
まとめ
・古代には想定されていなかった心理的な拘束からくるコルチゾールの増加によって脳、特に海馬がダメージを受ける
・刺激の多い日常によってもたらされる扁桃体の過敏化によって、現代人はストレスに弱くなっている
「うつ病は甘え」とよく言われ、精神論で片付けられてしまうことが多いです。
ですが、ストレスは脳を物理的に蝕むことが科学によって明らかにされてきています。
精神論を見直し、ストレスとの向き合い方を考える必要だと思います。
本書ではストレス対策法(コーピング、マインドフルネス、運動など)も紹介されています。興味がある方は読んでみるとよいと思います。
今回はここまでです。ご覧いただき、ありがとうございました。