【書評・要約】青砥瑞人著『BRAIN DRIVEN』〜脳を理解して自分を高める〜
青砥瑞人氏の著書『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』をレビュー・要約します。
著者の青砥氏は株式会社DAncing EinsteinのCEOで、UCLAで神経科学を学んだという経歴の持ち主です。
DAncing Einstein - Applied Neuroscience for Human Wellbeing and Learning
本書はモチベーション、ストレス、クリエイティビティを神経科学の視点から解き明かし、日々のパフォーマンス向上に寄与することを目指した一冊となります。
脳の部位の名称をはじめ、学術的な用語も多いですが、ほとんどを読み飛ばしても内容の理解にはほとんど問題ありません。
脳の機能を非常によく理解できることに加えて、日常生活に生かすヒントも満載です。
本書で説明されているトピックは3つで、モチベーション、ストレス、クリエイティビティになります。
脳でどのようなことが起こっているか、学術的な説明はとても興味深かったです。
ここでは、モチベーションの部分について、要約したいと思います。
目次
モチベーションとは何か?
モチベーションの定義
モチベーションを神経科学の視点から定義すると以下のようになります。
脳の高次機能または学習に関わる行動を直接的に誘引する、体内及び脳内の変化を認識した状態
つまり、何か「刺激」があり、それを受けて体内の環境が「変化」し、それを「認識」した状態がモチベーションということになります。
モチベーションが高い、とか、低いというのは自分に気づいてこそ起こる変化なのです。
当たり前のようですが、まず、ここをしっかりと理解しておくことがモチベーションのコントロールにはとても重要です。
自分を俯瞰する「メタ認知」
このように、自分を俯瞰視、客観視した認知状態をメタ認知と言います。
メタ認知はモチベーションだけでなく、社会性や生産性にも深く関わる心理学の用語です。
自分を知る、というのはできて当然だと感じるかもしれません。
ですが、普段通勤・通学する道の電柱の数を覚えている人はいないでしょう。
それは、注意を向けていないからです。
意識的して自分に注意を向けない限り、自分の情報は脳に書き込まれません。
脳の神経回路を維持するのはたくさんのエネルギーが必要になるため、使われない神経回路は失われてしまうからです。
日常の中で当たり前にメタ認知を実行するには意識的に自分を観察する癖をつけることが必要になります。
このメタ認知の重要性はあとにも出てきます。
モチベーションに関わる神経伝達物質
それでは、ここでモチベーションに関わる神経伝達物質を紹介しましょう。
モチベーションに大きく関わる神経伝達物質は2つあります。
ドーパミンとノルアドレナリンです。
どちらも我々の行動を誘導するとともに、パフォーマンスにも影響を与えます。
この二つの神経伝達物質は並列関係ではなく、
ドーパミンは行動したり情報と接する前に、
ノルアドレナリンは実際に情報に接し行動する時に、
放出されます。
ドーパミンの役割
ドーパミンは好奇心をもったり、何かをやってみたいと思ったりしているときに出やすくなります。
ドーパミンは基本的は何かを「探し求める」時に放出されると説明されます。
ドーパミンは数ある情報の中から意図しない情報を減らしています。
一点集中するために重要です。
また、ドーパミンが発露するとβエンドルフィンが作られやすくなります。
βエンドルフィンは脳内アヘンとも言われる快楽物質です。
「もっと行動したい!」という快感を生むのがβエンドルフィンです。
ノルアドレナリンの役割
ノルアドレナリンは闘争・逃走本能に役割を果たす交感神経と連動して放出されることが多いです。心拍数を上げたり、脂肪細胞からエネルギーを放出する効果があります。
追い詰められて「火事場の馬鹿力」を出したりするときに放出される脳内物質です。
ノルアドレナリンはあらゆる情報に対して認知性を高めます。
対象シグナルへの注意や記憶定着率を高めてくれるポテンシャルがあります。
ノルアドレナリンが発露すると、コルチゾールと呼ばれるストレスホルモンが作られやすくなります。
「もうやめたい…」という感情を生むのがコルチゾールです。
ドーパミン+ノルアドレナリンで最高のモチベーションに
ドーパミンとノルアドレナリンのバランスがモチベーションには非常に重要です。
1. ドーパミンが少なく、ノルアドレナリンも少ない場合
「惰性」の状態で、パターン行動を繰り返したり、新しい行動をしていない状態です。
最もモチベーションの低い状態になります。
2. ドーパミンが少なく、ノルアドレナリンが多い場合
嫌々何かをやっている状態です。誰かに言われてやっているような状態です。
闘争・逃走本能が強く働いてしまうため、「もうやめたい」という感情が生まれやすくなります。
つまり、継続が困難な状態です。
このモチベーションの状態が過剰に繰り返されると、うつ病などのストレス疾患を誘引する可能性が高まります。
3. ドーパミンが多く、ノルアドレナリンが少ない場合
自分から望んで刺激や情報に向かう状態です。
初期の学び、無知な状態に起こりやすいモチベーションの状態です。
いい状態のように思えるかもしれませんが、この状態は長くは続きません。
新しい学びを手に入れるとき、困難であればあるほどポジティブなフィードバックを得たり、快の体験を味わうことは少なくなります。
目の前の情報が理解できないことは脳にとってはストレスフルです。
この場合、快楽物質βエンドルフィンは合成されにくいのです。
そのため、集中力を高めようとしてノルアドレナリンが誘因され、それでもうまくいかないとコルチゾールなどのストレスホルモンが誘引されてしまいます。
単にドーパミンによって行動を起こすだけでは、継続が困難なのです。
そして、いつしか「やらされている感覚」が強くなり、2の状態に陥ることが多いのです。
三日坊主になってしまうのは、これが一つの原因だと思います。
この状態から、次に説明する4. ドーパミンが多く、ノルアドレナリンも多い状態に移行することが重要なのです。
4. ドーパミンが多く、ノルアドレナリンも多い場合
最もモチベーションの高い状態です。
挑戦し続け学びに変えるためには、ドーパミンとノルアドレナリンの両方が必要なります。
自ら望んで挑戦してドーパミンが出ている状態に、ノルアドレナリンの効果を足すことで、私たちは学びや成長を加速する最高のモチベーションへと到達できます。
新しいことに挑戦するときは、どうしても自分のできないことや足りないことに目が行きがちです。
うまくできないとストレスが溜まるのは当然の反応です。
ですが、βエンドルフィンにはストレス状態を緩和して平衡状態に戻す働きもあります。
(ストレス状態を平衡状態にもどすことをホメオスタシスと言いますが、この記事では詳しく説明しません)
失敗を成長への栄養素と捉えるとき、ネガティブな感情がポジティブな感情に変わります。
自分が成長したことを実感することで、新しい試みへの希望を高めることで、さらにドーパミンが放出されます。
成長を実感することが、ドーパミンとノルアドレナリンの両方を利用する上で大切なのです。
モチベーション維持のために、精神論として物事を明るく捉えることが唱えられることがありますが、神経科学的にも正しいと言えます。
モチベーションを高めるには
モチベーションを高めるには、ドーパミンを放出することが大切です。
そのため、成長を実感するために良いところを見つけることが大事になります。
ところが、人の脳はネガティブな情報に敏感です。
それは、危険を避けるために重要だからです。
そもそも、人間は「できないところに目が向かいやすい」性質を持っているのです。
だからこそ、意識的に良いところを見ていくことが重要なトレーニングになります。
「いいとこ探し」は高次の脳機能であるため、意識的に学習する必要があります。
これはまさしく、前述のメタ認知です。
使わなければ、失われてしまいます。
高いモチベーションを維持するために、まずは自己観察から始めることをお勧めします。
まとめ
本書『BRAIN DRIVEN』はモチベーション、ストレス、クリエイティビティを神経科学の視点からまとめた一冊です。
青砥氏は「脳科学・神経科学レクチャー」を主催していて、その内容をもとにまとめたのが本書です。
私も参加したことがあり、一般で10000円弱するのですが、本書はソフトカバーで2500円以下です。
脳科学・神経科学レクチャーの方がマニアックな話もされていましたが、さわりだけ理解するには本書で十分です。
レクチャーの内容をこんな価格で本にしてしまって大丈夫?と思ってしまいました。
青砥氏が集中力について語った一冊についてもレビュー・要約しています。ご覧いただけると幸いです。
dadada-business.hatenablog.com
こちらも併せて、ぜひご一読あれ。