理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『スマホ脳』〜スマホに脳がハックされた〜

アンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』をレビュー・要約します。
著者はスウェーデン出身の精神科医です。
スマホを含めたデジタルデバイスSNSの危険性、子供の成長に与える影響を論じた一冊になっています。

スマホ脳(新潮新書)

スマホ脳(新潮新書)

 

本書が全体を通して一貫しているのは
脳が現代の技術の進歩についていけていない
という視点です。

猿人が登場したのは約700万年前。
ホモサピエンスが登場したのはおよそ20万年前。
進化の万年単位で進むにもかかわらず、ここ20年でインターネットとスマホが急激に発達しました。

そして、SNSも登場しました。
SNSは我々の脳の機能である報酬系をハッキングして、
投稿に「いいね」がついていないかを常に気にさせます。

本書ではデジタルデバイスSNSが我々の生活に与える影響の大きさを論じています。
ここでは、スマホ依存になる理由、スマホによる集中力低下、子供への悪影響という点についてまとめます。

何故こんなにもスマホにハマるのか?

本書で重要なキーワードがドーパミンです。
ドーパミン報酬が期待される時に放出されます。
報酬が得られた時ではなく、期待される時、という点がポイントです。

狩猟採集民の暮らしを想像してみましょう。
彼らにとって、食糧の確保は死活問題です。
食料を確保するために、「あそこに食料があるかもしれない!」と思って行動する方が、食料を確保できる確率が上がります。
つまり、報酬が得られるかもしれないと期待して行動することで、実際に報酬が得られる確率が上がるのです。
これによって、生き延びて遺伝子を残すことができる可能性が高まります。

また、進化の過程で、人間は情報を渇望するようになりました
ライオンがいつ行動するか、危険人物は誰か、野ウサギはどこにいるか…
情報が多いほど、生き残り子孫を残せる確率が上がります。
ここで関わってくる脳内物質も、ドーパミンです。
新しいことを学んだときやもっと詳しく学びたいと思う時、ドーパミンが放出されるのです。

このドーパミンが関わる報酬システムが激しく作動するのは期待する時です。
「何かが起こるかも」という期待が報酬システムを駆り立てるのです。

それでは、現代のスマホSNSをみてみましょう。
SNSは「かもしれない」の宝庫です。
他人の投稿、自分の投稿につく「いいね」、メッセージ……
SNSはこれらを常に期待させます。
「大事かもしれない」ことに強い欲求を感じて、「ちょっと見てみるだけ」とスマホを手に取るのです。

Facebookやインスタグラムは、誰かが自分の投稿にいいねをした時、すぐに我々の元に届けないことがあるそうです。
報酬システムが最高潮に煽られる瞬間を待っているのです。
刺激を分散することで、ご褒美への期待値を最大限にしています。
このような企業の多くは行動科学や脳科学の専門家を雇っています。
依存性を最大化するためです。

スマホが集中力を低下させる

まず前提として、ごく一部の例外を除き人間はマルチタスクが苦手です。

複数のことを同時にこなしているつもりでも、実際は集中の対象を切り替えているだけです。
切り替えには時間が必要で、さらに、再び元の作業に100%集中するためには何分もかかります。
また、マルチタスクを頻繁に行う人は、瑣末な情報をより分けて無視するのが苦手になります。

それにもかかわらず、人間の脳はマルチタスクをするとドーパミンが出て気持ちが良くなります。
これは私たちの祖先が、この世のあらゆる刺激に迅速に対応できるように、警戒態勢を整えておく必要があったためです。
集中を分散させることで、現れる様々な危険に素早く対応する必要があったために起こった脳の進化です。

筋トレと同じように、マルチタスクを続けると得意になるのでは?と考えた方がいるかもしれません。
ですが、普通の人の脳はその逆になります。
マルチタスクを続けると、さらに注意力が散漫になるのです。
スマホが誕生してから「ながら作業」が増え、注意力がどんどん低下しているのです。

それでは、スマホをサイレントモードにしてポケット入れておけば、解決するのでしょうか?
残念なことに、そんなことはありません。
大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりも良い結果が出たそうです。
ポケットに入っているだけで、集中力が阻害されるのです。
類似の現象が他の複数の実験でもみられています。

バカになっていく子供たち

本書の第7章のタイトルが「バカになっていく子供たち」です。
強烈なタイトルです。
スマホによって、子供たちにどのような影響が出ているのでしょうか?

パズル遊びを例に取ると、小児は本物のパズルをすることで指の運動能力を鍛え、形や材質の感覚を身につけます。
そういった効果はiPadでは失われてしまいます。

また、複数の調査で、よくスマホを使う人の方が衝動的になりやすく、報酬を先延ばしにするのが下手になります。
報酬を先延ばしにできなければ、上達に時間がかかるようなこと(楽器など)を学べなくなります

このほかにも、スマホが普及した2011年以降に睡眠障害や精神不調が増加しています。

スティーブ・ジョブズは子供がデジタル機器を使う時間を制限していたそうです。
様々な研究成果が出る前から、ジョブズスマホの危険性を十分認識していたようです。

まとめ

スマホSNSの過度な使用に警鐘を鳴らす一冊です。
本当にスマホの影響なのか、という点についても慎重に議論を進めています。
著者の真摯な姿勢が窺えます。

学校でタブレットを配布する施策が進んでいますが、デジタル機器の使用について再考する必要があると感じました。
現代でデジタル機器に関わらない人はいないので、幅広い人に読んでいただきたい一冊です。

ぜひご一読ください!