理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】青砥瑞人著『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』〜4種類の集中を使いこなす〜

今回は青砥瑞人氏の『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』をレビュー・要約します。

4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中

4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中

  • 作者:青砥 瑞人
  • 発売日: 2021/03/18
  • メディア: 単行本
 

私は過去の記事で『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』という青砥氏の著書を紹介しました。

dadada-business.hatenablog.com

4 Focus』はその続編にあたります。脳科学的に集中力を分析した一冊になります。専門用語はほとんど使われていません。私たちに語りかけるように書かれている上、ポップな挿絵もあり読みやすさ抜群です。

本書のポイントは「集中力には4種類ある」ということです。机に座って長時間勉強することだけが集中力だと考えがちですが、実はそれは集中力の1種類でしかありません。

ここから、本書の重要な内容を厳選して要約します。

目次

脳科学の大原則

集中の話の前に、能科学の大原則を紹介します。それは

「Use it or Lose it」

です。使うと新たな神経回路が形成され、使い続けると強固になっていきます。しかし、使われていない回路は失われていきます。

非常にシンプルな原理ですが、言い換えれば、何歳からでも脳は成長するといえます。繰り返し行うことで、確実に脳は変化していきます。

4つの集中力

本書の最も重要なメッセージは、集中力は「注意が外に向くか、内に向くか」「注意の範囲が狭いか、広いか」の四象限で分類することができる、ということです。「外に、狭く」が集中力と言われて最もイメージするものです。4つの集中力はそれぞれ以下のような名前がつけられています。。

  • 「外に、狭く」…入門集中
  • 「内に、狭く」…記銘集中
  • 「外に、広く」…俯瞰集中
  • 「内に、広く」…自在集中

これらを組み合わせることで、
それぞれについて、詳しく説明します。

「外に、狭く」入門集中

注意が外側に向いており、かつ狭い状態です。仕事中の作業、読書、暗記をしようとしているときの集中がこの入門集中にあたります。とりわけ、新しい学びを始めるときは「外に、狭く」の入門集中が不可欠で、特定分野に密度の高い集中を向けることで、記憶が定着しやすくなります。

入門集中のメリットは学習効率や記憶力を高め、明確になったやるべき作業の効率を向上させてくれることです。

入門集中を最高まで高めるには、気が散らないようにすることが大切です。そのため、机の上にものを置かない、静かな環境に身を置く、ということが必要になります。それだけではなく、空腹感や頭痛といったことも入門集中の妨げになります。自己管理もとても大切なのです。

入門集中は目的やゴールが明確なほど、効果的に働きます。つまり、ゴールに関する情報を収集し、必要なステップを細分化していくことで入門集中は高まります。実際に作業をするとき、次のステップを予測しながら作業すると、入門集中は高い状態で維持され、物事の処理能力が劇的に効率化します。これは、本を読んだり、文章を書いたり、人と話したりする場面に応用が可能です。

もしかするとお気づきの方もいるかもしれませんが、この予測する作業は「内に、狭く」の記銘集中を活用している状態です。記銘集中は入門集中と切り離せない関係にあります。

「内に、狭く」記銘集中

記銘集中は自分の内側にある情報に注意を向けて思考を巡らせたりその時の感情を呼び起こしたりする状態のことです。

入門集中で予測しながら作業をすると良いと説明しましたが、「内に、狭く」集中しているから予測が働きます。この予測機能は情報処理が速まるだけでなく、記憶定着の効率も高めてくれます。

予測機能を上手に使うコツは二つあります。
一つは予測しながら取り組むことに普段から慣れておくこと
もう一つは予測機能を活用する場面に対して、ある程度親しみを持っていること。全く新しい取り組みにはそもそも予測が立てられないからです。

よく予習や準備が大切と言われますが、それだけではもったいないのです。脳の予測機能を活用することで、授業や会議の時に少し先をイメージすることで、集中力は高まります。

記銘集中は自己との対話、と言い換えることができます。自分はなぜ、何をやろうとしているのか、が明確になっていくからです。やろうとしていることを深く知ることで、「自分で決めた」という自覚がある状態は、集中力を発揮するための心理的な安全性を支え、集中力全体が高まります。

自己との対話は、深い記憶の定着にも一役を買います。現在や過去の密度の濃い情報をああでもない、こうでもない、と反芻することで、記憶が深く定着しやすくなるのです。そこに感情の動きも合わせて記憶を再現すると、感情の記憶も脳に残り、記憶は豊かなものとなっていきます。数分であったとしても、その効果は非常に大きなものです。

「外に、広く」俯瞰集中

全体に注意を払いながら、複数のアクションを同時に行うことができるときの集中の状態は俯瞰集中と呼ばれています。俯瞰集中は無知すぎる対象や情報が少ない状況では使うことができません。入門集中・記銘集中によって情報処理の経験を繰り返すことで行き着く集中の状態です。

補助輪を外した自転車に初めて乗るときは体のバランス、ハンドルのコントロール、ペダルを漕ぐタイミングなど、一つ一つの動作に注意を向ける必要がありますが、一度乗れるようになってしまえば、いちいち注意を払わなくなります。自転車に乗っている最中に車とぶつかりそうになったらブレーキをかけることができますし、通りのパン屋から漂ってくる美味しそうな香りにも気付くことができます。これは俯瞰集中が働いているからです。

単に無意識的な行動、というだけではありません。必要な点に注意を向けることができる状態です。職人やプロ、ベテランが行う作業は慣れによって無意識化できる作業は対局的に俯瞰的に、自分のものになったやり方が連動して実現されているのです。
真面目すぎる人ほど、入門集中に頼りがちです。意識的に何かをする処理速度には限界があります。無意識化することで脳の処理速度をさらに高めることができます。やり慣れた仕事はやや不真面目に流し作業をする、くらいの感覚でいると、徐々に情報処理の効率は良くなっていきます。

 

「内に、狭く」自在集中

ぼーっとしているようで考えを巡らせている状態です。「自在」は仏教用語としても用いられており、心が煩悩の束縛から解放され、何事も自由になって思うがままになしうる能力を指すようです。

会議の最中に窓の外の雲を眺めながら、次の休日に何をするか、という空想に耽る…。側から見れば不真面目そのものですが、裏を返せば、会議が気にならないほど、内側に集中力を向けているのです。空想を繰り広げているこの状態こそが自在集中です。

こうした状態は専門用語でマインドワンダリング、と呼ばれています。

流石に、会議の最中に自在集中モードに入ってしまうのは少々問題ですが、集中の一つとして捉えると非常に重要な役割を果たします。この集中モードは自由度が高く、クリエイティビティが発揮されやすい状態です。

閃きにつながる自在集中を使いこなすには意識的に、この無意識的な集中に導く方法を知ることが重要です。具体的には、スマホを手放して気分が変わる単調な作業に取り組むことです。散歩、サウナ、シャワー、皿洗いなど、気分が変わるあまり難しくないことをしてください。そうすると、単調なために暇を弄ぶ感覚が訪れ、無意識的な内向きの広い思考に自然と移っていきます。

よく「シャワーを浴びてたら閃いた」「トイレで思いついた」といった話を聞くことがあると思いますが、これは「狭く」注意を向けていた状態を一旦離れたことで、自在集中が活躍してくれたためであると言えます。

注意が必要なのは、ネガティブなマインドワンダリングはうつ病の原因になりうる、ということです。普段からポジティブなフィルターを通して物事を捉える癖をつけておきましょう。

集中力をブーストするには

集中力を深く理解してブーストするためには、神経伝達物質の働きを理解することが重要です。本書では3つの神経伝達物質が紹介されています。

  • ノルアドレナリン…切迫感を抱いている時に分泌され、集中力を一時的に高める
  • ドーパミン…わくわくした感情とともに分泌され、集中力を高める
  • βエンドルフィン…ドーパミンが放出されやすい状態を保つ

締め切り直前に高い集中力が発揮される際に放出されているのがノルアドレナリンです。一時的に集中力を高めますが、同時にコルチゾールというストレスホルモンも分泌されやすくなるため、長続きはしません。

一方、新しい学びに楽しく向かっているときや好きな漫画やゲームに没頭しているときに放出されるのがドーパミンです。しかし、ドーパミンによる集中にも限界があります。新しい学びには必ず困難がつきまといます。その壁にぶつかるとノルアドレナリン型の集中に切り替わってしまい、ストレスを感じるようになってしまいます。

最も理想的なのは、ドーパミンノルアドレナリンがバランスよく分泌され、βエンドルフィンも働いている状態です。ドーパミン型の集中に、時間制限や締め切りなどのノルアドレナリンが出る状況をプラスすると、非常に高い集中力が発揮されます。

高い集中力を維持するにはβエンドルフィンに働いてもらう必要があります。βエンドルフィンを効果的に分泌するには、「物事を楽しむ能力」が重要になります。外に向けた集中モードだけではなく、内に向けた集中モードで内面に目を向けながらインプットした情報と記憶を照らし合わせて楽しむ、そういった楽しみ方ができるようになると、βエンドルフィンが分泌されやすくなります。

最初に述べた「Use it or Lose it」の原則の通りです。楽しむ、ということに意識を向けることを繰り返すと、脳は楽しむ能力を育んでくれます。

「楽しむ」ということは精神論にとどまる話ではありません。長期的に集中力、ひいてはウェルビーイングにも良い影響を及ぼすことが脳科学の研究によって明らかになっているのです。

まとめ

本書は集中力についてまとめられた一冊になります。
脳科学的に集中力を解き明かしていく本書は、読んでいてとてもワクワクしました。日常生活や仕事に行かせる内容が盛り沢山です。

ぜひご一読あれ。