理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』~誰でもオリジナリティを発揮できる~

ここでは、アダム・グラント氏の著書『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』を書評・要約します。

著者について

著者であるアダム・グラント氏は組織心理学者で、ペンシルベニア大学ウォートン校教授です。
彼のデビュー作『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』はベストセラーになりました。
本書はアダム・グラント氏の第2作目になります。

本書の概要

本書では「オリジナリティ」に着目しています。
著者のオリジナリティの定義は以下の通りです。

ある特定の分野において、その分野の改善に役立つアイデアを導入し、発展させることを意味する。

本書の特筆すべき点は、オリジナリティは一部の天才が持つ能力ではないという主張です。

オリジナリティに関する誤解を解きほぐし、我々のような普通の人がいかにすればオリジナリティを発揮できるのかを分析したのが本書になります。

本書は全8パートで構成されています。

  • オリジナリティを発揮する人の考え方
  • 的確に発信する方法
  • 家庭や環境が与える影響
  • オリジナリティを邪魔する感情

についてまとめられています。
起業家になるような人向けではなく、普通の人がオリジナリティを発揮するための方法がまとめられた、非常に勇気づけられる一冊です。

 

以下では、本書で私が興味深いと感じた点をいくつかピックアップして要約します。

要約

オリジナリティに関する誤解① リスクをとる必要がある

オリジナルな人の例として起業家が挙げられます。
一般に、起業家は非常に大きなリスクを取ってチャレンジしているというイメージがあると思います。

それでは、「成功する起業家がリスク・テイカーなのか?」ということを調べた研究があります。

ある研究者が1994~2008年のあいだに起業した20~50代の5000人以上を追跡調査しました。
起業の際に本業を続けた人とやめた人がいます。
一般的なイメージだと、本業をやめる方が起業の成功率が高そうではないでしょうか?

しかし、本業を続けた起業家は、やめた起業家よりも失敗の確率が33%低かったそうです。

本業を続ける傾向は、優れた起業家に限ったことではありません。
才能を発揮して名を成している著名人の中にも、代表作で収入を得るようになっても常勤の職や学業を続けていた人が多いのです。
クイーンのブライアン・メイグラミー賞受賞者のジョン・レジェンド、ホラー小説の巨匠スティーブン・キングなど、その例には枚挙に暇がありません。

時間と労力を十分に注がなければいい仕事ができない、常識的に考えるかもしれません。
しかし、ある分野において安心感があると、別の分野でオリジナリティを発揮する自由が生まれるというメリットがあるのです。

オリジナリティに関する誤解② 最大の障害は「創出」

新しいアイデアを出すことさえできれば万事うまくいく、と思い込んでいる人も多いと思います。

しかし実際は、オリジナリティを阻む最大の障害はアイデアの「創出」ではなく、「選定」なのです。
必ずしも、企業やコミュニティでアイデアが不足しているというわけではありません。斬新なアイデアの中から、適切なアイデアを選び出せる人がいないことの方が問題なのです。

発案者なら分かるだろう、というのは誤解であり、自分自身のアイデアを評価するときには自信過剰になりがちです。

この解決策の一つは「多くのアイデアを生み出すこと」です。

ある研究によれば、ある分野における天才的な創作者は、同じ分野に取り組むほかの人たちよりも、特に創作の質が優れているわけではないそうです。

たとえば、シェイクスピアは人気の高い『マクベス』『リア王』『オセロ』を書いた5年のうちに、最低ランクされる作品も書いています。

ベートーヴェンモーツァルトのようなクラシックの大家も、最も評価の高い作品を作った年には平凡な作品も多く残しています。

すなわち、「マイナーな製品が最も多く創作された期間は、メジャーな作品が最も多い」と言えます。

専門知識と経験が深まるほど、世界の見方だある一定の状態に固定されてしまう、ということも言われています。

また、アイデアを選定する際に重要なことは、自分で判断しようとしたり、上司に意見を求めたりするのではなく、同じ分野の仲間に意見を求めるべきです。

自分の判断は自信過剰に、上司の判断はリスクを回避しようとしすぎるあまりに、正しい判断ができなくなってしまいます。

実際、同業者の判断が一番信ぴょう性が高いということも研究によって示唆されています。

オリジナリティに関する誤解③ 専門特化した方がいい

ノーベル賞受賞者と一般的な科学者を比較したところ、どちらもその分野において深い専門性を有していました。
しかし、ノーベル賞受賞者は、一般的な科学者より芸術に携わる割合が並外れて高かったのです。

異なる文化や価値観にふれることで、柔軟性や順応性が高まるのだと推測されます。

まとめ

本書はオリジナリティを発揮するためにどうすればいいか、という研究をまとめた一冊になっています。
エビデンスに基づいて考察が展開されており、説得力もあります。

どの1パートをとってもそれだけで本一冊分の価値があると感じました。非常に密度の濃い一冊です。

ぜひご一読あれ。