理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『深い集中を取り戻せ』〜集中できることは幸福だ〜

今回は井上一鷹氏の著書『深い集中を取り戻せ――集中の超プロがたどり着いた、ハックより瞑想より大事なこと』をレビュー・要約します。
著者の井上氏は集中力を図る眼鏡型のウェアラブルバイス、JINZ MEMEの開発や事業に携わっている方です。その井上氏がJINZ  MEMEから得られた一万人以上のデータを分析し、集中についてまとめたのが本書となります。

JINS MEME

一つのことを深く集中して考えるためには、準備段階だけで23分かかるそうです。
一方で、井上氏らの調査によれば、

現代人はオフィスで「平均11分に1回」話しかけられる

ということが明らかになりました。準備だけで23分かかるのに、11分に一度話しかけられていては深く集中することができるはずもありません。

現代人が最も集中できない場所=オフィスだったのです。

時間を忘れるほどの集中は「フロー体験」と呼ばれます。フロー体験の研究は意義、快楽に続く「人類3つ目の幸せを見つけた研究」と言われています。
その3つ目の幸福、深い集中を我々は失ってしまっているのです。

本書はタイトルの通り、深い集中を取り戻す方法を指南した一冊になっています。一万人以上のデータを読みとき、よくあるハック的な小手先の手法にとどまらず、人生・仕事をどのようにデザインしていくべきか、その方向性を示しています。

以降では、「自宅ではたらく時に個人ですぐにできること」として紹介されている内容を要約したいと思います。

目次

環境に投資しよう

集中力を高めていくためには、環境を改善することが必須です。

椅子に投資しよう

人間の脳は「理性的に考える脳」「直感的に考える脳」があります。理性的に考えるためには視野を狭くし、他のものが目に入らない状態にすることが有効です。一方で直感的な仕事(アイデア出しなど)をするときは視野を広くし、部屋を明るくするなどリラックスした状態の方が良いです。

理性と直感を使い分けるには、姿勢が非常に重要になってきます。理性を働かせたい時は下を見下ろすようにして視野を狭くし、周辺情報を減らすことが有効です。
一方で、直感的な仕事の場合はやや上を向き、ゆったりとした姿勢にすることが大事です。

自宅で働く場合、リラックスできるソファなどはあることが多いでしょう。長時間座っている椅子を用意することが大切になってきます。

本書で坐骨座りが推奨されており、以下のような椅子が紹介されていました。

また、立って作業すること有効です。

プライベート空間と仕事空間を分離しよう

ソファやベッド、趣味のものが目に入ってくると、集中が阻害されます。没頭して作業したい時は視野の周辺の情報は邪魔になるため、これらはなければないほどいい、と言えます。

壁に向かって仕事をする机に仕切りを立てるなどして視野を制限しましょう

デスク周りを整理しよう

他の情報が見えると集中が削がれてしまいます。机の上はきれいにしておきましょう。ToDoリストやカレンダーもよくありません。

また、デスクのサイズは横幅95 cmくらいがベストだそうです。

五感を活性化しよう

五感を活性化させる刺激を上手に活用することで、集中力は向上します。
井上氏らは五感刺激が集中にどのような影響を与えるのか検証しました。
その結果、以下の方法を全て実践できた人は集中の度合いが8.8%も向上したそうです。
特に、視覚、聴覚、嗅覚が集中に大きく関与していることが判明しました。

一般的なオフィスの照明は「寒色系の昼光色」です。これは昼の空をもしています。

一方で家の照明は「暖色系の電球色」であることが多く、これはリラックスモードに適した照明です。

色味を調整できる照明ならば、時間帯によって照明の色味を調整してみましょう。集中した時は寒色系に、リラックスしたいときは暖色系に切り替えてみましょう。

植物

視野の120度内に緑色が含まれている割合は「緑視率」と呼ばれています。この「緑視率」が10〜15%の時、人も集中のパフォーマンスが最も高まります。緑視率を高めることで副交感神経を優位にすることで、リラックスした状態を作り出せれば、仕事への集中は長続きしやすくなります。

机の上に観葉植物を置くなどして視界に緑を増やしてみましょう。

自然音

音の有無は個人差が大きいそうです。爆音で音楽を聴くことで集中できる、という人もいます。

ですが、避けた方がいいのは、日本語の歌詞の音楽を聴く、ということです。脳の言語野がそちらに意識が向いてしまいます。

一般に、集中のために効果的なのはホワイトノイズ(全ての周波数を含む音)や自然音ということになります。

香り

集中時には「ローズマリー」や「ペパーミント」、リラックス時は「ラベンダー」の香りがおすすめとされています。

また、この香りの時は集中する、と事前に決めておけば、集中モードに入りやすくなると考えられます。

室温と換気

室温は、男性の場合は23度程度、女性の場合は25〜26度が最も集中しやすいそうです。

また、CO2濃度は低い方が集中しやすく、1000 ppm以下だと集中力が途切れてきます(大気中のCO2濃度は400 ppm程度)。数時間に一度、窓を開けて換気をしましょう。

反復運動

時間と共に集中力が低下することはどうしても避けられません。回復させるには、反復運動が有効です。反復運動としてはガムを噛むことや貧乏ゆすりが挙げられます。

また、脳を切り替える、という意味で触覚刺激を利用することも有効です。窓を開けて風に当たる、顔を拭くといったことも切り替えに有効です。

まとめ

本書は深い集中力を取り戻すための方法論をまとめた一冊になっています。
本記事ではハック的な部分を中心に紹介しました。
本当の深い集中を実現するためには、夢中になることが大切である、と述べられています。夢中は自らの意思に基づいた行為です。
夢中になるためにはどのようなライフスタイルを構築すればいいのか、本書にはそのためのヒントも散りばめられています。

JINZ  MEMEに興味がある方はこちらをどうぞ。
JINS MEME

以上です。ぜひご一読あれ。