理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『シャーデンフロイデ』〜現代社会の病理の象徴〜

本記事は中野信子さんの著書『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感 (幻冬舎新書)』の書評・要約になります。

著者について

著者は中野信子さん。
脳科学者であり、テレビのコメンテーターとしても活動中です。
本書の他にも『サイコパス (文春新書)』『キレる!(小学館新書)』など、多くの著書があります。
書店で著者の本を見かけたことがある人も多いと思います。

脳科学者として、人間の脳に関わる多くの著作を世に送り出しています。

本書の概要

今回紹介する本のタイトルにもなっている「シャーデンフロイデ」。
本書では以下のように説明されています。

シャーデンフロイデ」は、誰かが失敗した時に、思わず湧き上がってしまう喜びの感情のことです。

そういった感情に心当たりのある人がほとんどではないでしょうか。
それと同時に、そんな感情を抱いてしまう自分に嫌悪感を持つ人もいると思います。

一見不要に思える「シャーデンフロイデ」という感情。
本書では、人間がシャーデンフロイデを抱く脳のメカニズムや、
進化の過程でなぜシャーデンフロイデが生き残ったのか、
といった驚きの事実が説明されています。

さらに、イジメや“不謹慎狩り”などに関する脳科学的な説明も述べられています。

オススメしたい人

脳科学や心理学に興味がある人。
シャーデンフロイデ」という感情の正体を知りたい人。
イジメや“不謹慎狩り”の理由が知りたい人。

要点まとめ

ここからは、私が特に面白いと思ったポイントをまとめます。

シャーデンフロイデを持つ理由

非常にいやらしい心の動きであるシャーデンフロイデ
なぜ、進化の過程を経てなお、シャーデンフロイデという感情は消えずに残ったのでしょうか。

その答えを端的に言ってしまえば、シャーデンフロイデは集団にとって都合の悪い個体を標的として「発見」し、「排除」するために使われるからです。

集団からはみ出す者を叩く。
そうすることで、人類は安定な社会を形成してきたのです。
安定な社会を築いた方が、人類が生き残る確率が高かった。だから、シャーデンフロイデが残った、と考えられます。

不謹慎狩りの正体

不謹慎狩りは、コロナ禍でもよくニュースになります。
シャーデンフロイデはという感情はその基礎であり、「不謹慎なヒト」を検出するのに役立っていると言えます。

そして、
“自分は正しい。「ズル」をしている人が許せない。だから自分が暴力を振るっても許される”
そんな心理状態によって「不謹慎なヒト」に制裁を加えたとき、本人の脳内にはドーパミンが分泌されます。

これも冷静に考えれば、不思議な話です。
制裁を加えようとすれば、相手から反撃を喰らう可能性も大いにあり得ます。
個人としては、時間も労力も損につながる可能性があります。
しかし、人類はドーパミンを分泌してまで、「不謹慎なヒト」に制裁を加えるのには理由があります。

それは集団を維持するためです。
集団のルールから逸脱した人を潰すことで、集団の崩壊を防ぐことができるのです。

結論を言えば、誰かを叩く行為というのは、本質的にはその集団を守ろうとする行動だと言えます。
不謹慎狩りは人間の高い向社会性によってもたらされているのです。

まとめ

本書はシャーデンフロイデという感情の正体を解き明かしています。
シャーデンフロイデ現代社会が抱える病理の象徴ということができます。
シャーデンフロイデの根幹に関わる脳内物質についても、本書の中では詳しく解説されています。

シャーデンフロイデ』という取っ付きにくそうなタイトルですが、中身は非常に読みやすく、かつ驚きに満ちた一冊です。

是非ご一読あれ。