理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】テクノロジーの世界経済史 〜イギリスが産業革命を起こせた本当の理由〜

1700年代後半からイギリスで産業革命が起こりました。
教科書的には、その理由は以下の3つだと言われています。
すなわち、資本、市場、機械化です。

それでは、他の国が産業革命を起こせなかった理由はどこにあるのでしょうか?
革命ほどの規模になっていたかは分かりませんが、技術革新のチャンスは他の国や地域にもあったのです。
実は、その違いは「政府の行動」でした。

この記事では、労働者の視点から見たテクノロジーの分類、労働者の反乱、イギリス政府の行動をまとめます。

目次

テクノロジーの分類

テクノロジーは大きく2種類に分けることが可能です。

労働を助ける技術(労働補完技術)人間の労働に置き換わる技術(労働置換技術)です。

例として、労働補完技術には望遠鏡が挙げられます。
望遠鏡のおかげで、天文学者は多くの天体を観察できるようになりました。
言い換えれば、望遠鏡は天文学者の仕事を助けてくれたのです。

労働置換技術の例には、自動織機が挙げられます。
自動織機はイギリスの産業革命で爆発的に広がりました。
自動織機は、それまで手で織っていた人々の仕事を奪ってしまいました。

ある人にとっては労働補完技術でも、別の人にとっては労働置換技術、といった場合もあります。

ある技術が誕生した時、労働補完技術なのか労働置換技術なのか、
を考えることは、その技術がどのように発展するかを見極める上で非常に重要な視点となります。

労働置換技術に対する労働者の反乱

技術の発展は、誰もが歓迎する事態ではありません。
特に、労働置換技術の場合は社会的な不安を引き起こします。

織機の改良によって起こる産業革命のきっかけの一つは、イギリスのジョン・ケイが飛び杼を発明したことだと言われています。
飛び杼は生産性の大きな向上をもたらす発明でした。
しかし、この技術はなかなか受け入れられませんでした。
熟練の織工の仕事を奪う「労働置換技術」だったからです。

このように、労働置換技術は労働者の反発、或いは失業を招くことになるのです。

時の権力者たちは、労働者の反発や失業を恐れました。
歴史を紐解けば、その例は枚挙にいとまがありません。

ローマ皇帝ウェスパシアヌスカピトリーノの丘まで円柱を運び上げるにあたり、円柱を運ぶ機械を拒絶しました。
民衆を養えなくなってしまうからです。
この事業には数千人の人夫が必要でした。
円柱を運ぶ機械は民衆から仕事を奪い、社会が不安定化する危険性がありました。

また、エリザベス1世はウィリアム・リーが発明した靴下編み機に特許を与えませんでした。
靴下編み機が普及すれば、失業が増えると恐れたためです。

大幅な省力化につながる起毛機もヨーロッパ各地で禁止されています。
禁止しなかった都市では必ず暴動が起きたそうです。

産業革命以前の権力者は、技術の進歩よりも社会不安による政権の転覆を恐れ、技術進歩を抑え込むことで社会の安定を選択したのです。

イギリスが産業革命が起こせた理由

産業革命以前の権力者は、どちらかといえば労働者の味方でした。

実は、産業革命期のイギリス政府は労働者でなく機械化の側についた初めての政府だったのです。
これは、商工業者など産業資本家階級が政治的な影響力をつけたためです。
イギリスの貿易における競争優位性を保つためには、機械化による効率の改善が欠かせない、と当時の権力者は判断しました。

産業革命期、イギリスでも労働者の反乱は起きました。
機械を破壊したり、工場に火をつけたりしたのです。

それに対して、イギリス政府は1769年法を制定し、機会を破壊したものは死刑に処すと定めたのです。

しかし、暴動はなかなか鎮まらず、1810年代には労働者の暴動として有名な『ラッダイト運動』も起こります。
イギリス政府は、軍隊を出動させる、30人以上の運動家を絞首刑に処すといった強行姿勢で臨み、反乱を鎮静化しました。

 

まとめ

イギリス政府が貿易の競争優位性維持のために機械による生産性向上を指向したため、機械の味方をし、労働者の反発を力づくで抑え込んだ。
これが、イギリス政府が産業革命を起こせた理由です。

さて、それでは現代ではどうでしょうか?
日本では、タクシー業界を守るためにウーバーなどのライドシェアが広まっていません。
誕生した技術が社会実装されるか否か、政府の動きが非常に重要になってくるのです。

今後、AIが人間の仕事を奪うと言われています。
しかし、AIを導入しなければ、生産性の向上が遅れ、競争に遅れをとることになります。
日本や各国政府がテクノロジーに対してどのような判断を下すのか、
歴史と照らし合わせながら注視していきたいものです。

 

参考文献

本記事は『テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツパラドックス』を参考にしました。 

本書はテクノロジーの発展が経済に与えた影響を論じています。
歴史を学ぶことで、未来を考えるための知恵を授けてくれる一冊です。

テクノロジーが社会実装されるために必要なのはどのような要素か。
テクノロジーが経済にどのような影響を与えてきたのか。
同じ労働置換技術であっても、反乱が起きる場合と起きない場合があるのは何故か。

テクノロジーを基軸として経済を学ぶことができます。

ぜひご一読あれ。