理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』

ここでは『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』のレビュー・要約をします。

本書は未来を予測する際の考え方、未来を変えるテクノロジー、今後各分野でどのような変化が起こるのか、を示した一冊になっています。情報量がとんでもなく多いです。未来予測本はたくさんありますが、情報量で言えば本書はトップクラスでしょう。裏を返せば、日頃から情報収集を怠らない人にとっては情報の寄せ集めと感じる部分もあるかもしれません。
本書は幅広い分野での未来予測を知りたい方に特にオススメです。本書を読んだのちに、より専門的な本を読むと各分野の専門書を読むと、理解が深まると思います。

ここからは未来予測する際の考え方、技術が広がる6つのステージ、注目のテクノロジー、加速を加速させる推進力についてまとめたいとおもます。

目次

なぜ未来を予測するのは難しいのか?

最大の理由は「収穫加速の法則」です。
「収穫加速の法則」は『シンギュラリティは近い』の著者、レイ・カーツワイルが提唱しました。これは、テクノロジーは線形的に発展するのではなく、指数関数的(エクスポネンシャル)な速度で拡大する、ということを意味した法則です。未来を予測するためには、指数関数的な成長を考えていかなければならないのです。

この法則に従えば、我々はこれからの100年で、2万年分の技術変化を経験することになります

それでは、「なぜ今なのか?」

その答えを一言で言えば、「コンバージェンス(融合)」です。コンバージェンスは本書の超重要キーワードです。
量子コンピューター、人工知能ナノテクノロジー、3Dプリンティング、ブロックチェーンなど、近年様々なイノベーションが起こっています。現在注目すべきなのは、これまでバラバラに存在していたエクスポネンシャル・テクノロジーが融合しつつあるという事実です。

例えば、医薬品開発が加速しているのは、バイオテクノロジーだけがエクスポネンシャルなスピードで進化しているだけではなく、AI、量子コンピューターなどの幾つものエクスポネンシャル・テクノロジーが融合しつつあるためです。

エクスポネンシャル・テクノロジーの成長の6つのステージ

エクスポネンシャル・テクノロジーのには6つのステージ「6つのD」があります。以下の6つです。

「デジタル化(Degitalization)」:テクノロジーがデジタル化される
「潜航(Deception)」:初期のゆっくりとした成長段階(指数関数的成長の初期は線形的成長とほとんど変わらないため)。世の中の過度な期待に応えられない状態
「破壊(Disruption」:指数関数的成長によって、世界に影響を与え始める
「非収益化(Demonetization)」:かつて製品やサービスにかかっていたコストが消えてしまう
「非物質化(Dematerialization)」:製品そのものが消える
「大衆化(Democratization)」:一般に広がる

ハイプサイクルを別の表現にしたもの、と考えることもできるかもしれません。

 

注目の9つのテクノロジー

現在、エクスポテンシャルな成長をしているテクノロジーは以下の9つが挙げられます。

量子コンピューティング:物理的制約により終わりを迎えるとされるムーアの法則から、次なるパラダイムシフトを引き起こします。特に、化学と物理は量子プロセスであるため、ウェットラボから脱却して「新たな材料、化学物質、医薬品発見の黄金時代」の到来が期待されます。

人工知能:すでにFacebookはユーザーの自殺リスクを判断するために、国防総省は兵士のうつやPTSDの初期兆候を察知する為に使用しています。日本でも、AIが書いた小説が星新一賞の最終選考に残った。「見る」「聞く」「読む」「書く」「知識の統合」の書く能力が急速に高まっています。

ネットワーク(5G・6G・センサー):2010年には18億人、2017年には38億人、さらに驚くことに、これから5年で、全人類が接続の恩恵を享受するようになると予測されます。2030年にはネットに接続されたデバイスは5000億個(それぞれにセンサーが数十個)に達すると見込まれています。健康、農業、製造業、ネットワークが関わらない分野を探す方が困難であるため、影響は言わずもがな、です。

ロボティクス:高齢者介護、ホスピスケア、乳幼児ケア、ペットケア、パーソナルアシスタント、アバター、自動運転車、空飛ぶ車など、来ると言われていた分野で実際にロボットが登場し始めています。経済的な面での革命も起きており、デンマークのロボットメーカー、ユニバーサルロボット製の多関節のコボット「UR3」の市販価格は2マン3000ドルです。工場労働者の世界的な平均賃金並みです。人間をロボットに置き換える企業が大量に出ているのも納得です。

仮想現実(VR)VRの脅威的な点は、プレゼンス(実在感)という新しい現象です。VRを正しく行うと、脳科学的な理由によって、脳はVRを信じてしまうのです。五感の制約が解き放たれます。

3Dプリンティング:今日の3Dプリンターは金属、ゴム、プラスチック、ガラス、コンクリート、細胞、皮革、チョコレートまで、数百種類の材料を印刷可能です。エンジンや回路基盤、義肢、住宅まで生み出しています。2000年代初頭まで、3Dプリンターは数十万ドルしました。しかし今では1000ドルせずに買えます。

ブロックチェーンブロックチェーンは分散型の、可変性のある、許容度が高く、透明性の高いデジタル台帳です。「分散型」というのは、広く共有される集合的データベースという意味です。「可変性がある」というのは、誰かが台帳に新しい情報を書き込むたびに、すべての台帳が更新されることを意味します。「許容度が高い」というのは、現金と同じように誰もが使用できるということです。最後に「透明性が高い」というのは、ネットワークに属する誰もが、ネットワーク上で行われるあらゆる取引を見られることです。身元の証明、資産の正当性、仮想通貨などで活用されます。表立っては目立ちませんが、裏方的な役割を果たすテクノジーです。

材料科学:材料科学は新しい材料の発見と開発に特化した学問分野です。オバマ大統領は「材料ゲノム・イニシアチブ」を発表しました。AIを使って元素の数億通りもの組み合わせを調べることで、膨大なデータベースを構築しました。物理的な世界の新たな地図を手に入れたのです。材料科学の進歩は、そのままデバイスの進歩に直結します

バイオテクノロジー:2001年、1億ドルと10年をかけた「ヒトゲノム・プロジェクト」が完了しました。現在、人1人のゲノム配列を調べるのにかかるのはほんの数日で、コストは1000ドルに満たない所まで下がりました。さらにCRISPR-Casシステムによって、DNAの塩基配列の一塩基単位での書き換えが可能になって来ています。これは、パーソナライズされた医療の時代の到来を予感させるものです。

 

「加速」がさらに加速する

イノベーションによって一つの作業の時間が減れば、他の作業をする時間が増え、更なるイノベーションが後押しされます。このように、「加速」することで、さらに技術の進歩が加速していくのです。

ラマヌジャンのような「天才」が発掘されやすくなる、コミュニケーションがしやすくなる、寿命が伸びことで1人が起こせるイノベーションが増える、といったことが加速の副次的な産物です。

 

まとめ

9つのテクノロジーを紹介しましたが、これらのテクノロジーがコンバージェンスすることによって、2030年までに私たちの日常は激変します。本書では買い物、広告、エンタメ、教育、医療、寿命、保険、金融、不動産、食料と、多岐にわたる分野の未来を予測しています。

情報量は多いのですが、ワクワクが止まらない一冊でした。

ぜひご一読あれ。