理系博士の小噺

サイエンス系を中心に興味を持った本の要約・レビューをしています。たまに雑記も。

【レビュー・要約】『権力の終焉』〜権力に何が起こっているのか〜

モイセス・ナイム著『権力の終焉』をレビュー・要約します。

権力の終焉

権力の終焉

 

本書は2013年の刊行時から多くの企業のCEOや学者から絶賛されていましたが、Facebook  CEOのマーク・ザッカーバーグが立ち上げたブッククラブで取り上げたことをきっかけとしてアメリカで大ブレイク、21万部を超えるベストセラーとなりました。

本書は権力が衰退している現状を分析した一冊になります。国家だけでなく、政治、ビジネス、メディア、宗教に至るまで幅広い領域で権力の衰退が起こっていると主張しています。

それでは、本書の内容を要約したいと思います。

目次

権力について

本書における権力は「他人に何かをさせる能力、またはさせない能力」とされています。そして権力は以下の4つの方法で示されます。すなわち、物理的な力(軍や警官など)、規範(道徳や伝統、宗教的信条など)、売り込み・宣伝文句(説得者の目的または利益の促進に繋がるように他人に状況を理解させる能力)、報酬です。
権力を維持するためには「参入障壁」が非常に重要な役割を果たします。言い方を変えれば、物理的な力、規範、売り込み、報酬、あるいはその組み合わせを新しいプレイヤーに展開させないための障害です。技術、兵器、財産、法律などによって、新しいプレイヤーが既存の権力に挑むことを困難にしてきました。

権力が大きい理由

資金や兵器、支持者などが権力の源となります。これらを管理して効果的に行使する方法が必要です。
ここで重要になるキーワードが「取引コスト」というビジネス用語です。これは、売買契約の作成や履行のコストのことを指します。1930年代、イギリスの経済学者ロナルド・コースが提唱しました。
この考えが提唱された当初は産業組織の分野に影響を与えました。企業の規模や性質の議論に利用されたのです。企業が自社と対等な別の企業と取引をするよりも、様々な機能を内包してしまう方が、取引コストは安くなるケースがたくさんあります。企業が垂直統合(供給業者や販売業者を買収してすること)によって成長するかどうか、を説明することが可能になるのです。さらには、「取引コスト」は業界よる企業の輪郭、成長パターン、企業の本質そのものを決定します。

この「取引コスト」という考え方は産業をこえ、政府機関、軍隊、教会にも適用可能です。
取引相手を内部に「取り込む」垂直統合によって、新しい小プレイヤーにとっては競争して成功を収めるチャンスが小さくなる、という参入障壁になります。また、競争相手がもっと広く権力を獲得しようとするのを妨げる、という参入障壁にもなります。

以上のように、取引コストを下げるための垂直統合によって「権力=大きい」という等式が完成したのです。

近年起こった三つの革命

近年、巨大な権力が大きく衰退しているというのが本書の主張です。その原因となっているのが、豊かさ革命、移動革命、意識革命という三つの大きな社会変容です。

豊かさ革命は国家の数から人口、識字率、製品量、教育まで、あらゆるものの増加によります。

移動革命はヒト、モノ、金、アイディアがこれまで想像もつかなかったスピードで世界のあらゆる場所に向かって移動している現状を指します。

前の二つは理解しやすいと思います。意識革命はどういうことなのでしょうか?意識革命は先の二つの革命に伴う考え方や期待感、願望における大きな変化です。豊かさ・移動革命によって我々(特に中間層)は自分たちよりも多くの反映、自由、個人的充足感を享受している人々が多くいることを知りました。そしてそれと同じ水準に達したいと望み、そうなることを期待するようになりました。意識革命は「期待感の革命」と換言できるでしょう。

この三つの革命は、権力への挑戦を妨げる障壁となっていた物理的な力、規範、売り込み、報酬の全てを弱体化させています。(詳細は本書を読んでみてください)

マイクロパワーの出現

さらに、三つの革命は「マイクロパワー」を台頭させました。

マイクロパワーは大きさ、相対的なスケール、資産と資源の一式、中央集権、ヒエラルキー、これらを持たない組織や力です。すなわち、マイクロパワーは既存の権力の対局に位置する存在であり、既存の権力が育成と管理に多大な時間と努力を費やしてきたものが欠けている、という特質を持ちます。

本来、マイクロパワーは例外的存在でした。しかし、マイクロパワーは、確立されたプレーヤーたちが当然と考えていた多くの選択肢を否定させる原動力となっています。
マイクロパワーは既存の権力を疲弊させ、邪魔をし、弱らせ、サボタージュを仕掛け、そして封じ込めたりすることによって、巨大な敵に、反撃するだけの術もなく準備もできていないことを気づかせるのです。そして、既存の権力は規模が小さくなったり、権力の維持期間が短くなったり、影響力の範囲が小さくなったりしています

権力の衰退は歓迎すべきことか?

著者は権力の衰退は良い知らせであると述べています

まず、権力の衰退によって社会がより自由になり有権者によって選挙の機会と選択肢が増えることがあげられます。また、コミュニティをまとめる新しいプラットフォームが出現し、アイディアと可能性が広がります。さらに、投資と取引が増え、企業間の競争が激しくなり、それによって消費者の選択肢が増えます
こうした結果は世界共通ではなく、どの場合も失望させられるような例外はあるでしょう。それでも、おおまかなトレンドは明らかです。

反対に、権力の弱体化による危険性として、5つのリスクが挙げられています。無秩序、熟練の解体と知識の喪失、社会運動の陳腐化、集中力の持続時間の短縮、疎外感です。具体的には、権力の衰退は夥しい数の多種多様な犯罪者、テロリスト、もしくは別の悪意ある非国家主体を駆り立てている原動力になります。また、過激主義者の台頭、ビジネス上の詐欺や不法行為の機械の増加もあるでしょう。また、権力の衰退は集団行動問題を悪化させます。世界的問題への対応がより困難になるでしょう。

我々はどうすべきか?

権力が衰退していく流れは止めることができません。そして、権力の衰退にはメリットもデメリットもあります。そのような大きな変化の潮流の中で、我々は権力に対してどのように向き合えば良いのでしょうか?

まず、第一歩として、エレベーター式の思考を止める必要があります。つまり、国家を例にとれば、アメリカが凋落するとか中国が台頭するといったランク付をやめるべきだ、ということです。国家や政治運動、企業、宗教などの大きな単位のランク付ではなく、「内側」で何が起きているのか、を理解する必要があるということです。

次に「全てを単純化する輩」に注意しなければいけません。独裁はある意味非常にわかりやすかったのです。たくさんのマイクロパワーが台頭している今、世界は複雑化しています。その中で思考停止してわかりやすい極端な主張に煽動されることに十分気をつける必要があります。そのためには、権力の衰退を受け入れることが重要だと筆者は述べています。

そして、我々が政治システムをもう一度信頼できるようになることが必要です。そのために、政治は信頼の回復、政党の改革、一般市民が政治プロセスに有意義に参加できる新しい方法の追求、効果的な統治をおこなうための新しい機構の創造、国民国家が協調する能力を強化すること、これらを目標の中心に据えるべきだ、と著者は主張しています。

まとめ

本書『権力の終焉』は権力というものの歴史を紐解き、現代の権力の衰退を解説したものになります。
現状を知り、これからの権力の行方を考察する上で、参考になる一冊だと思います。

権力の衰退は国家、国際政治、ビジネス、宗教、軍事力など多岐にわたる分野で起こっています。
ブログ内では書き切れませんでしたが、本書ではこれらの分野における具体的な権力の衰退とその影響について論じています。

ぜひご一読あれ。