理系研究者の書評ブログ

30代の化学系の研究者が、読んだ本の書評を書いています。

【書評・要約】『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』〜本当に悪魔だったのか?〜

今回は『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』の要約をします。

コンピューターの発明者として知られるフォン・ノイマン。本書は彼の生い立ちと哲学に迫った一冊になります。ただし、「哲学」の部分について語られた部分は少なく、伝記的な要素が強いです。

目次

フォン・ノイマンの天才エピソード

天才と言われるフォン・ノイマン。その天才性を示すエピソードには事欠きません。

分野の広さ

フォン・ノイマンは53年余りの生涯の間に、論理学・数学・物理学・化学・計算機科学・情報工学・生物学・気象学・経済学・心理学・社会学政治学に関する一五〇編の論文を発表しました。

そして、様々な分野で先駆的な業績を上げており、「ノイマン集合」、「ノイマンボトルネック」、「ノイマン・モデル」、「ノイマンパラドックス」など、彼の名前が冠された専門用語を五〇種類以上発見することができます。

暗記能力

その天才ぶりは幼少期から発揮されています。
ノイマンは「一度読んだ本や記事を一言一句たがわずに引用する能力」を持っていました。
8歳になると、ドイツの歴史家ウィルヘルム・オンケンの『世界史』全四四巻をドイツ語で読み通しました。とくに南北戦争の章はお気に入りで、後にアメリカの古戦場を訪れた際には、その章をそのまま暗唱してみせたそうです。
この能力は生涯にわたってフル活用されました。

学生時代のエピソード

そして、大学へ進む際、ベルリン大学応用化学科に合格したのですが、試しにブダペスト大学大学院数学科を受けてみたところ、受かってしまったのです!

その後ベルリン大学で私講師をしていたとき、そこでもとんでもないことをやってのけます。ベルリン大学の博士学位の口頭試問では専門分野の「未解決問題」を見せて試します習わしがあったそうです。院生が考え始めたら「不可」、考えるまもなく解けないと答えたら「優」という試験です。ところが、私講師をしていたノイマンは問題を見ていた際に、専門外の未解決問題を解いてしまったのです。

他にも、天才エピソードは山のようにあります。是非本書を読んで確かめてみてください。

ノイマンの性格

天才には変人が多いと言われますが、ノイマンは柔和で人当たりのよかったようです。周囲から浮き上がらないように、皆から好かれるように、懸命に努力をしていた、と筆者は分析しています。

また、パーティーを頻繁に開き、仲間の研究者との会話に花を咲かせていたそうです。

意外なことに、ポーカーは素人相手でも負けることが多いようです。数学でも天才的なノイマンにしては、非常に意外です。ポーカー中も、別のことを考えていたとか。

フォン・ノイマンの哲学

ノイマンの思想の根底にある考え方は以下の3つであると筆者は分析しています。

  • 科学で可能なことは徹底的に突き詰めるべきだという「科学優先主義」
  • 目的のためならどんな非人道的兵器でも許されるという「非人道主義
  • この世界には普遍的な責任や道徳など存在しないという一種の虚無主義

ノイマン原子爆弾の開発を推進しました。それがなぜかと言えば、「戦争を早期に終結させるためには、非人道的兵器も許される」という思想に持っていたためだ、というのが本書の著者の主張です。
そして、表面的には柔和ですが、内面の彼を貫いているのは「人間のフリをした悪魔」そのものの哲学である、と著者は喝破しています。

ここからは、本書を読んだ私自身の考察です。
私としては、「悪魔」という表現は極端なのではないか、と考えています。「科学優先主義」はその通りだと思います。科学への愛は本物ではないでしょうか。しかし、デュアルユースの問題に悩まされたノイマンは科学優先主義を正当化するために「非人道主義」「虚無主義」という考え方を身につけたのではないか、と私は感じました。
原子爆弾の研究をしていたとき、美食家のノイマンが食事を3回飛ばしたうえ、日頃4時間睡眠なのに12時間寝続けたそうです。目覚めたかと思えば、突然異様な早口で妻に「我々が今作っているもの(原子爆弾)は怪物だ」と喋りました。
本書の著者はこの狼狽をその夜に限ったことだと捉えています。しかし、ノイマンは葛藤を続けていたのだ、と私は思います。その夜の出来事は、原子爆弾の開発への迷いや葛藤を微塵も見せなかったノイマンが妻にだけ見せた弱みだったのではないでしょうか。根は「悪魔」というよりも「善人」であったというのが私の印象です。

私の見方はいささかロマンチックでしょうか?
是非本書を読んで、皆さんも考えてみてください。

まとめ

今回は『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)』を要約、レビューしました。
ノイマンの生涯を描き、彼の哲学に迫った一冊になっています。科学への貢献がわかるだけでなく、世界大戦に与えた影響もわかるため、理系以外の人にも読んでいただきたいと感じました。
(難解な科学的説明はありません)

是非ご一読あれ。